傲り

母のEはもう今年で還暦を迎える。

Eが38になる年に俺を産んだ。

なかなかの高齢出産だ。


小さい頃は、もっと綺麗で若い母がいいと生意気な駄々を捏ねていたが、20代になると母の偉大さを身に染みて感じる事がどうも増えてくる。


「そうやって人のこと見下してばっかのくせに、あんただって何も出来やしないじゃない。」


俺が高校生くらいの頃、家賃の支払いと同じくらいの頻度でEが俺に何度も放ったウザったらしい文句。


俺はEには特に何にもしていなかったのに、お得意のお節介の調子がその頃はかなり良かった。


ただ、今だから分かる。

それがどれだけ的を得た言葉であるのか。


もしかしたら、母の洞察力が鋭いのではなく、こんなにも単純なことに気がつけなかった自分が阿呆なのではないか。


人間はどうも自分を客観的に観察するのが苦手らしい。


受け入れたくもないような真実からは目を背ける。

その目は、他人の嫌なところは痛いほど清澄に捉えるのに。


そんなことを言うEでさえ、自分が何者かであると信じ、真実から目を逸らしているに違いない。


人間なんて、誰も大したことなんかないのに。


高尚なようで品性のあるあの人も、腹が空いたら牛を貪る。


自分を特別な奴だとは思い込むな。


お前は何者でもないんだ。

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21歳 @nisemono_fake

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