第2話 現状確認

「いやいやいや。訳分かんないって」


 ゲームの世界に転生、それもキャラクターに憑依しただって?

 そんなの簡単に信じられる訳がない。


「……夢、か?」


 そう推察して頬を抓ねるが痛みは感じる。

 加えて意識し始めると、嗅覚や聴覚も夢だというには鮮明で、これが現実ではないとは思えなかった。

 ジクジクと痛む赤らんだ頬をさすれば、鏡の中の自分が当たり前に動きを真似る。


「ははっ、まじかよ」


 ここまで来ると夢だとは到底思えなかった。

 寧ろここが現実ではないと言われた方が嘘くさくすらある。


──どういう訳か俺は、『誰が為の精霊使い』(以降『誰が為』に略)の世界へとやって来たのだ。

 漫画やゲーム等で、異世界や創作物の世界に転生転移するという知識自体は持っていたが……まさか自分自身に起こるとは思いもよらなかった。


「こんなこと……あるのか……すげぇ……っ!」


 認めると、エクシアが命を落とした時に冷めきった筈の想いが、大量の熱を伴って蘇ってくる。


 もしも。

 もしもここが本当に『誰が為』の世界で俺がギルバートならば──エクシアが、居る。

 絶対に届かない場所に居た彼女が、空想ではなく現実に存在するのだ。


 だったら俺のやるべき事は一つだろう。


「絶対にエクシアを死なせない。シナリオなんてぶっ壊してやる」


 やる事は決まった。

 だがここで問題となってくることがある。

 転生先である現在の俺ことギルバートは、主人公達と敵対する組織の一員であり、物語の序盤で死ぬ運命にある。


 彼が組織に所属したのは、辺境の領主であるギルバートの父の領地が【魔物】の襲撃によって壊滅する事がきっかけだった。

 そこで領地と家族を失うも、運良く生き残ったギルバートは組織に唆され、国への不信感を募らせ憎悪を孕む事になる。


 結果として『誰が為』の舞台である【精霊学院】へと潜入し、物語がある程度進行した所でで主人公達の前へ現れ死んでいくのだ。

 そのストーリーへの道中も主要人物へ悪態をついたりと、ユーザーからのヘイトも高かった。ザ・噛ませ犬といった印象。

 ギルバートとはそんなキャラクターである。


「だからまずは、襲撃を乗り越えることからだ。ただ……」


 このギルバートというキャラクター、噛ませ犬なだけあって戦闘における才能がからっきしなのだ。

 だからこそ、組織からも捨て駒として扱われていたから死んだわけで……。


 極めつけは公式の販売した設定資料にて、作中で最も才能の欠落したキャラクターである事が判明したことだ。

 剣術、槍術、弓術は勿論のこと、精霊との親和性も低いため精霊術すらもろくに使えない。

 とにかく不憫すぎるのだ。


 そんなキャラクターに憑依してしまった俺は、どうやって強くなればいいのだろうか?

 努力する? いや、それだけでは主人公は疎か、その辺のモブにも負ける可能性すらある。


「そうだ、あるじゃないか」


 世界的人気を博していた『誰が為』は、ゲームであるにも関わらず映画化されている。

 よくあるifストーリーという形でだが。

 評判はあまり良いモノではなかったが、この現状を打破するに当たっては最高のシナリオだ。


 ギルバートの住まう領地が【魔物】の襲撃で壊滅した伏線はここで回収される。

 結論を言うと、襲撃はギルバートを唆した組織の人為的なものであり、とある遺物を奪い去る事が目的だった。

 その遺物とは、【黒結晶】と呼ばれる精霊を封印する為の物であり、俺の目的の品でもある。正確にはそこに封印されている精霊が必要なのだが。


 その精霊の名はレティシア。

 火・水・風・土・光・闇とある属性の中で闇を司る、精霊の中でも最上位に位置する存在。

 彼女であれば、本来契約に必要な精霊のと親和性も度外視できるのだ。


 たが、代わりに必要な物がある。


「……覚悟は決めた」


 彼女は契約に代償を要求してくるのだ。

 しかし俺にはそんなの関係ない。

 流石に四肢や五感の一部を奪われるとなると話は変わってくるが、その時は別の代償を差し出せばいい。

 精霊使いの蔓延るこの世界で強力な精霊を使役できないことは、彼女を選ぶ他ない程に致命的なのだ。


「どんな手を使ってでもエクシアを救ってみせる」


 誓いを胸に俺は俺のやるべき事をやる。

 レティシアと契約するにあたって、俺自身の器を広げなければならないのだ。

 その為にも非力そうなギルバートの肉体の改造と、精霊術を行使する際に必要な【魔力】の保有量を増やさなければならない。


 肉体改造は筋トレで、魔力を増やすのは……とにかく魔法を使うしかない……筈だ。

 設定資料にも原作の主人公達による特訓シーンでもそう記載されていた。


 幸い俺は原作を数え切れないまで周回した事で魔術の知識──もとい、詠唱の丸暗記による優位な初動が可能である。

 精霊術は詠唱を必要としないが、魔術は詠唱を以て初めて発動するのだ。

 言わずもがな、自身の保有魔力を超える魔術は使えない。


 俺はスっと手を差し出して、思いついた詠唱を口にする。


「──風よ、我が意思に従って」


 ズンッと暖かな何かが、渦潮の如く体内を巡り始めるのが分かった。

 前世にはなかった感覚に、本能でこれが魔力だと直感的に理解した。


 だが、次の瞬間。


「あ、れ……?」


 ふわっと身体から力が抜けて、立っておく事すら出来なくなった。

 臀部を床に落とすと猛烈な目眩と眠気、そして頭痛と倦怠感が襲ってくる。


「やべ、まず……い」


 そう口にしたのを最後に、俺の意識は再び闇に飲まれていった。




========


お陰様で1話目にして日間100位代を達成出来ました!

ありがとうございます!

これからもどうかよろしくお願い致します(՞ . .՞)"


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誰が為の精霊使い〜やり込んだゲームへの転生先は『実は才能を秘めてた』なんて事もない噛ませ犬悪役だったけど、劇場版限定の最凶の闇精霊と契約して推しを護る為に最強を目指します〜 きのこすーぷ @sugimonn19981007

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