「うげぇ。覚悟は決めてきましたけど、えぐいっすね、これ…」


自殺を図った少女の遺書に書かれていた廃屋の人目に付かない花壇。

若い刑事は掘り出されていた死体を見て気分が悪そうにしている。


既に周辺住民からここ数ヶ月で何度か被疑者の少女を見かけたという証言は得ていた。


「ホントひでぇな、こりゃ」


ある程度現場に慣れている中年の警部も顔を顰めている。


「…まだ若かっただろうに気の毒に。葛田の冷蔵庫調べた奴らはもっと酷かったろうけどな…」


「ホントに人間なんすか、葛田の奴。悪魔か何かのようにしか思えねぇっすけど…」


「…時々いるんだよ。表面上は大人しくて無害だけど、その裏で人を人とも思わず自分の欲望を満たし続ける怪物が…」

「できりゃぁ、生かして捕まえて司法の罰を受けさせてやりたかったけどな…」


「…でも、こんなの見たらああしてやりてぇ気持ちも分かるっすよ。俺、こないだ娘が生まれたんすけど、こんな風に殺されたりなんかしたら冷静に犯人捕まえられる自信ねぇっす…」

「…まぁ、俺も娘がいるから分からなくもないがな。でもな、女性器を切り取られた娘の死体を目の当たりにして腸が煮えくり返ってても私刑ではなく司法の罰を受けさせるのが刑事って仕事なんだよ。気持ちは解るんだけどな…」

「…難しいっすね、刑事って…」


そんな会話を交わしながらも、警部の方は周囲を見回している。


「…?どうしたんすか、警部?」


若い刑事の方がそれに気付いて声を掛けると、警部は少し首を傾げて…。


「…いや、執念って奴だろうな…」

「いつから葛田を疑ってたのかは知らんが、多分行動範囲とか奴の車の目撃情報とかから死体が埋められてそうな場所を洗い浚い調べてって遂にここに辿り着いたんだろう…」

「…そうでもなきゃ、こんな廃屋の奥まった場所調べねぇよな…?」


死体の埋められていた場所の傍でそう独り言ちる警部からも気分が優れずまだしゃがみこんでいる刑事からも生い茂った生け垣や雑草が邪魔で野次馬達が蠢く表の道は全く見えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

美しい花 カワセミ @kawasemi1228

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ