第15話 閑話 聖女サイド
「うっわ。まさか課題今日までだったなんて……!」
私
慣れない環境、新たな人間関係、初めての仕事……こーれがキッツイのなんのって。ちゃんと生活するってこんなに大変だったんだって、1人暮らしをして思ったよ。本当実家通いの子っていいよねぇ。
ま、いってもしょうがないからやるしかないけどね。
元々負けず嫌いだったから、とにかく頑張ったんだ。だから最近は友達も出来たし、料理や家事だってきっちりやってる。学校もバイトも慣れてきたんだけど、うっかりレポート課題忘れちゃったんだよねー。おかげで今豪雨の中、傘をさして走ってる最中。
もう!この天気最悪!でも、こういう事があるかと、ロッカーの中に変えの仕事着入れといてよかったー。
そう思いながら曲がり角の手前にきた時、足元に幾何学模様の円陣がいきなり現れたの。
「はあ⁉︎何これ⁉︎」
それは辺りに強烈な光を迸り、私も足を思わず止めちゃったのよねぇ。
光が収まり気がついたら、そこは豪華なシャンデリアがある大理石の部屋。周りにカラフルな髪の人がいっぱいいて、囲まれていた私。
……うぇ、コスプレ会場に来た?なに?騎士っぽい人とゲームの魔法使いみたいにローブを来た人、しかも胡散臭いくらい豪華な服の人が何人かいる。
「やったぞ!」「成功した!」
私が状況を知ろうとしている時、周りは歓喜の叫び声でいっぱいだったのよ。互いに握手したりね。
はぁ?何よ?何が成功したのよ?
わけがわからず戸惑う私に、一際胡散臭い派手な格好の人が近づいてきて、私の前で跪いたの。
「よくおいで下さいました、聖女様。ここは貴方様が住む世界とは異なる世界キュフェリスタ。その中の国の一つ、シルヴェリア王国の王宮内です。私は第一王子のヴェルゼンと申します。戸惑う事も多いでしょう。ここではなんですから、場所を移動してご説明させて頂きます。さあ、どうぞ」
まぁ、顔面偏差値の高い男が跪いて丁寧に案内するってんだもん。普通の女子は嬉しい場面だろうね……でも残念!うちの親族で目が肥えてんだ、私。従兄弟の木崎家なんか美男美女だらけだし、うちの谷坂家の男共(兄と弟)だって見た目だけはいいんだ。
ま、私も「綺麗」とか「美人」って言われる人種らしいけど、この性格を知ってる友人からすると「黙ってたらねぇ……」と残念がられるけどね。……話ズレた。ともかくこの人胡散臭くて敵わないわ。
「えーと、ヴェルセン王子?申し訳ないけど人違いでは?」
まずは強制的に移動される前に、一つずつ洗い出していこう。
王子の手を取らずにっこりと笑いかけると、王子もおや?という表情したわね。残念、その手の顔は身内で慣れてるのよ。
「不安になるのもわかりますが、証拠は貴方の手の甲に現れております。ご確認下さい」
流れる様に私の手を触ろうとするものだから、バッと手を引き寄せて確認したの。全く油断も隙もない。
でも……あったよ。桜の花の模様が!いやいや、日本の国家の花は菊でしょうが!……アレ?そういえば両方だった気もする。
ま、まぁいいとして……聖女確定かぁ。だとしたらこれも聞いとかないといけないよね。
「……確かにありますね。それで?簡単に言うと私に何をしろと?」
「……端的に申し上げますと、この世界に蔓延っている瘴気という、人に害を与えるものを貴女様は浄化出来ます。どうかその力を持って、この国をお救い下さい聖女よ」
「聖女」と「瘴気」に「浄化」ときたか……これ、奈津が聞いたら喜びそうだなぁ。ん?佳織さんも好きだったっけ?あの2人ネット小説よく読んで私に勧めてきたからなぁ……おかげでなんとなく現状わかってきたけど。じゃ、これは聞いておかないとね。
「そう……それで役目が終わったら返してくれるんでしょう?」
やるとは言ってないけどね。私の言葉に一瞬嬉しそうな顔をしたかと思ったら、今度は凄く申し訳ない表情をしたわ、この王子。
「……申し訳ありません。歴代聖女はこの地で一生をお過ごしになり、お帰りになった例はございません」
……ふーん、帰れないってきたか。
……ますます腹立ってきた!
でも!落ち着け私!胡散臭い奴らだけど来たからには、状況を知らなきゃどうにもならない。
幸い今のところ扱いは丁寧だし、状況掴むまではこちらも利用させてもらうか……
「そうでしたか……申し訳ありません。混乱してしまって……しばらく休ませて頂けませんか?」
「畏まりました。まずはご用意させて頂いておりますお部屋へご案内しましょう。詳しいお話その後で。さあお手をどうぞ」
「……ええ、ありがと」
仕方ないからにっこり笑って、差し出された手を重ねて立ち上がったけどね……
うーわー!ぞわぞわする!なんの三文芝居よこれ!自分の態度にもビックリよ!ま、さすがに鳥肌立っているのは見えないだろうけど。
『ふふふ……意外にもすんなりいくものだ。歴代の聖女は泣き喚いたり我儘放題だと文献にあったのだがな。まあ、顔も良い女だ。しっかり繋ぎ止める事にするか』
……これって……王子の声よね……
手を繋いだら声が聞こえて来たから、驚いてジッと王子の顔を見つめていたら……なにを勘違いしたのか、ぎゅっと私の手を掴んで「大丈夫、私が守ります」だって。
お前が胡散臭いんじゃー!
とりあえず心の声は隠してにっこり笑っといたわよ。
なんだか知らないけど、ここにきてから私が触った人の心の声が聞こえる様になったのよねぇ。でもって移動中私の体の事とか丸め込む算段とか、頭の中で考えるこの王子の思考がウザくなってね。聞こえなくなって!って心の中で思ったらピタッと聞こえなくなったんだ。
成る程……意識すれば聞こえなくもなるのか……
これは良いね!手駒があるって事はいい事だ!
思わずニコニコ顔になった私に王子も都合よく解釈してくれて、側から見たらいい雰囲気で部屋に着いたんだけどさぁ……
「今日は来たばかりで落ち着かないだろう。詳しい話しは明日にしよう。今日はゆっくり休むといい」
そう言って人の手の甲にキスして行ったのよ!あの胡散臭いやつ!
「……ありがとうございます」
一応、礼儀の国の日本から来たものとして笑顔で礼はいったわよ……全身鳥肌ものだったけどね。顔引き攣っていただろうな……
ご機嫌な王子が去って、かなり豪華な部屋に多くの女性メイドさん達と残された私。いやいや、なんでこんなに使用人居るのよ……?
こっちから挨拶をすると、メイドさん達も1人ずつ挨拶してくれてね。どうやら顔合わせの為にズラっと揃ってたんだって。で、普段は隣の部屋に1人は必ず待機しているから、何かあったら鈴を鳴らして呼んでくださいと来たもんだ。どこの姫様よ、って心の中で突っ込んじゃったわ。
「ありがとう。じゃ、お茶を下さい。それから休みたいので1人にさせて欲しいのですが……」
「ユキノ様、私共には敬語は要りませんわ。気楽にして下さいませ。……では、お茶をご用意して来ます。少々お待ちくださいませ」
とりあえず喉乾いたし1人になりたいしって事で、お願いするとすぐに動いてくれるメイドの皆さん。流石訓練された動きだわね。バイト先でウェイトレスやってたから、つい所作に関心しちゃった。
すぐにお茶を用意してくれて、「御用がありましたらお呼びくださいませ」ってメイドさんたちが扉の外に出た時、座っていたソファーに横になっちゃったわよ。
「はぁ〜、つっかれたぁ……」
グデ〜と横になって改めてここが異世界だって実感すると、なんだか気が緩んで涙が出て来ちゃったわ。
……でも泣いてなんかいられない!
だってまだ試す事あるんだもの!
グイッと手で涙を拭って、座り直して考える。
とりあえず、状況が掴めるまで周りは敵認定しとこうかな。だって誘拐国に支えている人達なんだもん。一言も謝りの言葉がないっておかしくない?こちとら望んできたわけじゃないってのに!
だけど、強くは出られないんだよねぇ……
言葉は通じていても現状何一つ知らないし、なにもないわけだし。あ、でも人の心の声が聞こえる力はあったか。……心の中を聞く力……力か!
えーと……思い出せ!たしか奈津から勧められた本でこんな場面があったはず!で、なんか言うと力が見えるんだよね……
「ステータスだっけ……?」
ボソッと呟いたら目の前にパソコンの画面みたいな青いモニターが宙に現れたんだ!……え?マジ?
名前 谷坂 雪乃 19 人間
HP 50,000
MP ♾
スキル 全属性魔法 読心術 鑑定
称号 桜の聖女
……でちゃったよ。と言うかこれ拙いでしょ。思いっきりヤバい使われ方されそうじゃん。どうにかできないかな?
ステータス画面って呼ぶ事にしたけど、これってタブレットみたいにタッチパネルになってんだよね。で、色々タップで調べていたら、いいの見つけた!隠密魔法!奈津から借りた本では確か、この数字とか誤魔化せたはず!そう思ってできたのが
これ。
名前 谷坂 雪乃 19 人間
HP 50,000
MP 50,000
スキル 聖魔法 生活魔法
称号 桜の聖女
聖女はバレてるし、数値も合わせてみたけど……どうだろう?ま、とにかく色々1人の時間に試してみるか!
あ、とりあえず飲み物鑑定しておこうかな?鑑定って思うだけで出来そうだし。
『紅茶 睡眠薬入り』
……おいおいおい……早速なにしてんの?
うわぁ、マジで鑑定といい、読心術といいあってよかったわ!
……水なら魔法で出せそう?
いや、ここは聖魔法の浄化をかけるか?
浄化も頭の中で思うだけで、ぽわって光ってできたんだよね。念のため鑑定しても『紅茶』しか出てないし、うん、大丈夫でしょ。
クイっと少し冷めた紅茶を飲み干して、気合いを入れる私。
やってやろうじゃない!
この誘拐国に絶対一泡食わせてやる!
巻き込まれ召喚!ハウジングスキルと仲間達で生き抜きます! 風と空 @ron115
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