第14話 王都手前に到着
起きて来たお姉ちゃんに二人が護衛になった事を説明したら……「ええ!いつの間にそんな事になってるのぉ!」だって。全く、ネタバラシをした当の本人がこれだもんね。
それを言ったらいつものように口笛ふいて誤魔化してたけど。誤魔化しになってないって。その様子を笑って見ていたロティとハンナだったけど、その後がすごかったなぁ。
どうせなら銭湯も出して、お風呂に入ろうって事になったからね。人数いるし、いずれ商売するし見せておこうって事になったんだけど。
「なんだ?この湯量は?どこからこんなにお湯が出ているんだ⁉︎」
建物の中に入って大浴場を見たら、ロティはあちこちに疑問を持って私達に聞きまくり。いや、私達もこういうものだって、ていうのが関の山だってのに。それはもう次から次へと質問がくるの。
確かにこの魔法のある世界でも、このスキルから出た建物って不思議だよねぇ。
初めて見たわりにハンナは、ロティの質問に困っている私達の様子を見ながら笑って落ち着いていたけどね。でも、大浴場でシャンプーや石鹸を使ってみた時のハンナの反応がねぇ……
「まぁ!なんて素晴らしいのでしょう!綾達3人の肌が綺麗な理由はここにありましたのね!」
それはもうさっきまでのロティ並に綾ちゃんに詰め寄っていたよ。お互い裸のままで。その様子を見てお湯に浸かっていたロティが隣のお姉ちゃんにボソッと感想漏らしていたなぁ。
「さっきまでの私もあんな感じだったのか……」
「そうだねぇ。でもまぁ初めて見るならこんなものなんじゃなぁい?」
「ふむ……」
のんびりお姉ちゃんの返答に少し考え込むロティ。まぁまぁ、いいからいいから、ゆっくり浸かろうよ。
綾ちゃんがハンナを連れてお湯に浸かりにきた頃には、私達は流石に脱衣所に戻ったんだ。結構時間かかってたからねぇ。お疲れ、綾ちゃん。
まあ、ロティとハンナはその後も夕飯やら寝具やらに驚きの連続だったみたいだけどね。私もお姉ちゃんも「はいはい」「慣れてねぇ」ってスルーしてたら、マメな綾ちゃんが二人に捕まるという流れに。木崎家って基本マイペースだからなぁ。
「……とりあえず、護衛が必要な理由がわかった」
「これは綾だけでは手を余しますわね……」
次の日の朝、起きてきた二人が、ご飯食べながらそんな感想漏らしていたよ。というかハンナ、一応私とお姉ちゃんもいるんだけどなぁ。ま、いつもの事か。
そして全てナビちゃんのトランク収納に入れて貰って今日こそ王都へ出発!まぁここでもその様子に「……」となっていたロティに、「慣れましょう、ロティ」とポンと肩に手を置くハンナの様子があったけどね。うん、この辺は他の人にはあんまり見せないから心配しないで、と私。なぜか二人からジト目を頂きました。ん?なんで?
で、ナビちゃんの紹介と二人の驚き再び。
「は?馬無しの移動する乗り物?」
「え?この箱会話ができますわよ?」
車に乗るまで外でひと騒動。まぁまぁと誤魔化しながら二人の背中を押して居住空間に入れると、「はぁぁ……」と諦めの声が二人から聞こえてきたなぁ。
今日は、シルバが運動したいみたいだから、外の護衛はシルバにおまかせ。運転ナビちゃんで、お姉ちゃんが助手席でシルバのサポート。綾ちゃんが二人に居住空間の説明と案内をして、私はお茶とお菓子の用意。
今日は何が良いかな?あ、冷凍クッキーあった。冷凍パイシートもあるし、簡単ハートパイでいっか。作り方は……ある程度柔らかくなった冷凍パイシートを両端から真ん中に折りたたんでいって、包丁で5ミリくらいにカット。後は天板に並べて砂糖を振って200度で15分だったかな。
焼いている間に夜の仕込みも済ませちゃおう。……あ、お湯沸いた。今日は紅茶で良いかなぁ。
「こんな快適な旅があって良いのだろうか……?」
「そもそも私達護衛ですのに、お客様扱いですわね……」
紅茶を淹れてリビングに持って行くと、ソファーに座って項垂れているロティと呆れているハンナ。綾ちゃんは向かいのソファーに座って苦笑い中。
紅茶でいい?って聞きながらテーブルに人数分のカップを置いて行く私に「「はぁ……」」とため息を吐く二人。
「ねえ、綾ちゃん。どしたの?この二人」
「うん、私達が世間知らずだからじゃない?こんなの貴族でも持ってないみたいだし」
「あ、やっぱり?」
「わかっているなら自重してくれ……」
私と綾ちゃんの会話に疲れ切った声で参加してくるロティ。ハンナは切り替えて優雅に紅茶を飲み「あら、美味しいですわ」と紅茶を楽しんでいる。
「ロティ、切り替えも大事ですわよ。それより王都についたらディナに説明もありますのよ」
「ああ、そうだな。……今から頭が痛いな」
「あら、ディナだったら楽しみそうですわよ?心配いりませんわ」
ん?もう一人はハンナと同じ様な性格なのかな?会うのが楽しみだけど、意外にもロティは心配性なんだねぇ。あ、いい匂いしてきた。クッキー焼けたかな?
見に行くといい感じに出来上がっていたクッキー。少し冷ましてお姉ちゃんに先に差し入れしに行くと、後ろから付いてくる二人。今度は車の方が気になったみたい。
「お姉ちゃん差し入れだよー」
居住空間の玄関を開けると車が止まっていたの。フロントガラスの方を見ると、シルバがおっきなオークを引きずって車に向かって来ていたんだ。
「あれ?オーク出たの?」
「うん。だけどシルバのおかげで私の出番がなくてねぇ。今ナビちゃんに収納してもらうところー。あ、やった!なっちゃんのクッキー!」
助手席から振り返って、私達を見るお姉ちゃん。何よりすぐクッキーに目が行くのがお姉ちゃんらしい。クッキーを持って一休みすると宣言するお姉ちゃんの代わりに、是非運転席側に座ってみたいと言って来た二人。
「いいよー、どうせナビちゃんの運転だし。ロティは運転席で、ハンナは助手席ねぇ」
お姉ちゃんが許可を出すと、ワクワクした表情で交代して座るロティとハンナ。座った途端に早速ナビちゃんに色々質問が始まったよ。ナビちゃんは教えながら運転も出来るし二人をナビちゃんにお任せして、私達はリビングに戻ってゆったりお茶タイム。勿論、クッキーはロティ達にも渡して来たよ。
その日はほぼロティとハンナが運転席側から離れなかったなぁ。気がついたらロティが運転して、ハンナが射撃練習してたしね。慣れるに早いよ、二人共。
シルバはお姉ちゃんと一緒に中に戻って来たよ。久しぶりに思いっきり走ったからか、お気に入りの場所でブラッシングしてもらって嬉しそうに尻尾振ってたな。うん、定期的に走らせてあげないとね。
その日は王都まで後もう少しのところまで来たんだ。でも着いたのが夕方だったし、今日はナビちゃんの居住空間で泊まって、明日の朝王都まで歩いて行く事にしたの。
「はぁー!ナビさんは良いな!」
「ナビさん凄い性能ですわ!」
護衛の二人が存分にナビちゃんを体験して来て、満面の笑顔で戻って来たの。お姉ちゃんったらナビちゃんが褒められて嬉しそう。
「はーい、今日はお疲れ様ー!さ、二人共お風呂入って来てー」
私は戻ってきた二人に、タオルとパジャマと下着(綾ちゃん出してくれた)を渡してお風呂にロティとハンナを押し込むと、夕食の仕上げにかかったんだ。
お姉ちゃんと綾ちゃんは、綾ちゃんのネット通販を見てキャッキャと楽しそうに話してる。あ、なに?可愛い服あったの?ササッと準備して私も輪の中に入って、二人がお風呂から上がるのを待ってたの。
「ふう〜。ここでも贅沢にお湯を使わせて貰った」
「素晴らしいお風呂でしたわぁ」
しばらくするとすっかり温まった二人がリビングに戻ってきたから、ようやくみんなで夕食。今日は中華料理にしてみたの。エビチリソースに春雨サラダ、肉春巻きに八宝菜。勿論ご飯と味噌汁もあるよ。時間あるから思いっきり手が込んでいる料理もできるからね!
「なっちゃん美味しー!」
「奈津!エビチリいい辛みだよ」
元々の味を知っているお姉ちゃんや綾ちゃんからも好反応だったけど、ロティやハンナはなんか感激してたなぁ。「美味い!凄い!」とパクパク食べるロティに、「この味知ったら他で食べられませんわぁ」と上品に量を食べるハンナ。作った側としては嬉しい限りだったね。
綺麗に食べ終わってお茶を出した時には、綾ちゃんの質問から王都の事に話題がいったんだ。
「王都って二重に城壁あるんだねぇ」
「ああ。大きな外側が庶民が住む下町、内側が貴族街となっている。真ん中に王宮がある。聖女はそこにいるな」
「私達のパーティは貴族街の方の宿を拠点としていますのよ。と言ってもここ程快適ではないですけど」
街の外容を教えてくれるロティに補足してハンナもパーティ拠点を教えてくれたけど、ちょっと苦笑いしてる。貴族街の宿と言ってもこことは比べものにならないだろうからねぇ。
それでロティ達の予定としては、明日王都に着いたら下町にある冒険者ギルドにまず依頼完了報告に行くんだって。だったら私達も一緒に行って、オークやら狩った魔物を冒険者ギルドに卸しに行く事にしたんだ。お金も稼いでおかないとね。
「宿はどうする?」
「「宿は嫌〜」」
ニヤニヤしながら聞くロティに、ハモるお姉ちゃんと綾ちゃん。私も頷いていたけどね。
「ふふっ。でしたらその後は、貴族街にある商業ギルドですわね。しばらく王都にいるならば賃貸の土地を借りるのはいかが?」
「ああ、下町の城門から遠い場所なら目立たないだろうしな」
私達の答えを予想していたハンナが賃貸の提案をしてくれたけど……
「ええと、目立たない場所って危なくない?」
スラム街があるんじゃないかと心配になった私。
ロティによると、王都の城壁の中は騎士や兵士達が巡回していて危険地帯はないんだって。下町に孤児院はあるけど、王都市民権を持つ人の子供限定らしいの。
他の町から流れてきた人や王都市民権を持ってない人達は城壁の外に街を作って住んでいるらしくて、王都入り口の反対側がいわゆるスラム街だから気をつけてって事だったよ。……やっぱりあるんだね。ちょっと複雑。
「って、そしたら私達も土地借りられないんじゃない?」
「綾、大丈夫ですわ。ハルトウィルが保証人になりますもの」
「ああ、こういう時の為のBランクだからな」
綾ちゃんの懸念に、すぐに安心するように言い切るハンナとロティ。どうやら冒険者のBランク以上は王都市民権持ち(貴族街用)で、保証人にもなれるらしいよ。頼もしいなぁ。
そんな二人に明日は早く出発する事を勧められて、それぞれ動き出す私達。
片付けをした後、私達も3人で入浴して、スッキリしたところで、それぞれ部屋に入って就寝。
私はお姉ちゃんと少し寝ながら話をしてすぐ寝たみたい。
王都にいる聖女ちゃんの事を考えながら……
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