第6話 聖女召喚?


 自称『聖女』こと異世界人ナーロピアン『ペルセ』との出会いは三カ月ほど前にさかのぼる。

 季節は桜散る春だった。温かくなった所為せいもあるのだろう。


 この時期は、全国各地で変なヤツらがいて出て来る。

 そうなると同調するかのように怪異たちもさわぎ出す。


 トラブルの種は『ずっと引きこもっていればいいのに』と思わなくもない。

 俺たちにとっては、いそがしい季節だった。


 その日も窃盗団を追い掛けて、俺は街を奔走ほんそうする。ネット環境が整備され、IT機器が進化した現代、強盗・特殊詐欺グループによる事件も多くなっていた。


 相手が人間のみの場合は出向く必要はないのだが、人間と怪異との区別がつきにくくなっている今、強硬手段におよぶのは圧倒的に怪異がらみが多かった。


 人間たちによる情報収集能力の高さと怪異の異能が合わさった凶悪事件である。

 えて俺たちが大捕おおとり物をするのも、犯罪の抑止力のためだ。


 勿論もちろん、水面下では警察が動いているので、おとりの意味もある。

 犯罪に手を貸すような連中は、表面上の出来事か、自分に都合が良い出来事しか認識していないようだ。


 育った環境にも原因はあるのだろうが簡単に利用されてしまう。

 後は、そいつらの中に怪異をまぎれ込ませればいい。


 俺が追い掛けている男も、利用されている側の若者かもしれなかった。

 怪異相手に異能を使うのは問題ないが、ただの人間相手は不味まずい。


 特に俺の異能は被害が大きくなる。


 ――【死神】の対極になるようにゃ、相棒パートナーがいればいいのにゃ♪


 と珠子師匠には言われているのだが、宗教関連の人間が俺たちに手を貸すとは思えない。アンチ怪異派の政治家や人間至上主義の連中と対立する事になるだろう。


 元々、宗教関係者は怪異と対立関係にある。

 聖職者や祓魔師、祈祷師など、怪異を倒す代名詞だ。


何処どこかに【異世界ナーロッパ】から来た聖女様でも落ちているといいんですけどね」


 などと、その日も軽口を返していたのだが――


(どうやら拾ってしまったようだ……)


 俺の目の前に浮いているのは、純白の聖衣に身を包んだ愛らしい少女だ。

 アタッシュケースを大事そうに抱えていた男。


 俺の異能で、その視力を奪ったのだが、派手はでころび、地面へと顔面ダイブ。

 持っていたアタッシュケースを盛大にぶん投げてしまった。


 通常は鍵が掛かっているので、開くハズなど無いのだろう。恐らく、アタッシュケースを開けようとしていた状況タイミングで、俺たちがみ込んだようだ。


 壁に激突したアタッシュケースは物の見事に開いていた。どうやら、転移魔法がえがかれていて、開くと同時に魔法が発動する仕組みだったらしい。


 最近は【異世界ナーロッパ】へとつながる虚構領域ダンジョンうわさも聞く。裏で混沌の神々が手を回しているのかもしれないが、今の俺にそれを確かめるすべはない。


 たまに闇市場で魔法道具マジックアイテムが売買されることもあった。

 異世界人ナーロピアンを召喚する術式と魔力を込めた使い捨ての道具アイテムだったようだ。


 妖精エルフ幼い竜ドラゴンパピーなどは高値で売れるだろう。俺が『光の魔法陣』から出現した少女を受け止めると丁度、魔力も失われたようだ。


 少女の重みが直接、腕に伝わる。こうして、俺はペルセと出会ったワケだが、今も彼女を保護する任務を継続している。


 まあ、俺の【死神】の異能を打ち消してくれる聖女の存在が有難ありがたいのは確かだ。

 しかし、それで女の子を危険な目にわせるのは、俺としては本末転倒である。


 だが、どういうワケか最近のペルセは、やたらと事件に首を突っ込んでくるようになった。一度、師匠に相談したのだが、


「分かってないにゃ~♪」


 と返されてしまう。分かっていないのは、俺と一緒にいると危険な目にってしまうペルセの方ではないだろうか?

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