第4話 ようこそ、神渡村へ


 幕府が倒れ、明治となった日本。

 人間と上手く付き合えなかった怪異たちは、軍隊の手により一掃される。


 明治から大正に掛けて、大国と戦争をすることになってしまった日本。国内における問題をかかえたまま『戦争を行うワケにはいかなかった』という理由もある。


 怪異たちの掃討は富国強兵の一環でもあった。

 それから時は過ぎ、戦後の日本。


 高度経済成長の動きに呼応するかのように、再び怪異たちの動きが活性化する。

 弱体化したかに思われていた怪異たち――


 だが、それは反撃の機会を待っていただけだったようだ。

 異国の怪異たちと手を組み、ひそかに力をつけていた。


 国全体が豊かになろうとしていた時代――環境汚染や異常気象、政治への不満など――国民の感情が混沌としていた事にも起因するのだろう。


 海外で行き場を失った怪異たちが『日本へと雪崩なだれ込んできた所為せいだ』とも言われている。


 当時は警視庁が『捜査第零課』を密かに設立し、怪異事件に当たっていたのが、それにも限界が生じたようだ。


 その理由としては『怪異と手を組む人間が増えたからだ』とされている。

 恐れられるだけだった存在の怪異たちも、人と手を組むことを覚えたらしい。


 時の政府は怪異たちに人権を与えると共に、その存在をおおやけにすることにした。

 日本人が神を見失った時代でもあり、新たな信仰が必要とされていた時代でもある。


 元々『万物に神が宿る』とした考え方も根付いており、一神教の国とは違って、様々なモノを受け入れる土壌はあった。


 怪異たちが、そのすきねらうのは当然ともいえる。

 また、海外からの情報も多く入るようになっていた。


 隠蔽いんぺい工作が機能しなくなっていた事もげられるだろう。

 逆に言えば『怪異にも人権が与えられる』というめずらしい国となってしまった。


 当然、混乱はけられない。

 そこで時の権力者は怪異たちの力を借りることにする。


 これには合衆国の後押しが大きいだろう。日本政府は経済成長と経済発展を最優先課題とし、合衆国へ依存する政策を打ち出していた。


 これら政府に反発する勢力は、以前より人間に友好的な怪異たちと『より強い協力関係を結ぶ』という政策を打ち出す。


 敗戦の記憶が色濃く残っていた時代。

 日本人に戦うための牙がある事を思い出させようとしたのかもしれない。


 その思惑が成功したのかは分からないが、俺にとって大切なのは――当時、友好的とされた怪異たちこそ――【隠れ里】の怪異であるということだった。


 勿論もちろん、【隠れ里】の怪異たちにも協力する理由はある。

 急速に発展する人間たちの文明。


 科学の発展に比例するかのように、古い怪異たちは力を急速に失っていった。

 文明の豊かさと引き換えに『人々は『お化け』や『妖怪』を信じなくなっていった』と言えば、理解できるだろう。


 盛者じょうしゃ必衰ひっすいことわり――だがそれは世界の一面にしか過ぎなかった。

 俺のように、人間と区別がつかない新たな怪異が生まれるようになっていたのだ。


 怪異は人間社会に溶け込み、人の持つ心の闇にみついた。

 このままではやがて、人間と怪異の区別はつかなくなる。


 そう考えた場合、人間と手を組むこと自体はさしてむずかしくはなく、互いに利点メリットのある事だった。


 怪異たちは人間へ協力する代わりに、自分たちの安全を保障させる。

 そうやって、次の世代へと自分たちの存在をつないでいく。


 人間たちも怪異の力を借り、世にあだなす怪異をつことが出来る。

 こうして『特殊警察怪異対策課』が設立される運びとなった。


 その仕事は多岐に渡り、怪異事件の解決は勿論もちろん、【異世界ナーロッパ】からの侵略の防衛、虚構領域ダンジョン攻略と様々である。


 最近では異世界人ナーロピアンの保護も含まれるようになった。


「ようこそ、神渡みわた村へ……」


 案内するわ――と氷那姫。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 とペルセ。一見、仲良さそうな二人。

 俺の感じた不安は杞憂きゆうだったのだろうか?


「苦労するにゃん」


 と珠子師匠。

 確かに――と俺はうなずくと、


「一旦、荷物を何処どこかに置かせてくれ」


 二人にお願いする。そんな俺たちの様子に、


「やれやれ、ホント分かってないにゃー」


 と言って、珠子師匠は肩をすくめるのだった。

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