第3話 ツンデレ河流


「やっぱり、情報は伝わっていたんじゃないか」


 と俺はあきれつつ、


「暑いから、俺も抱き付いていいか?」


 冗談半分で言ってみる。すると、


「はい、どうぞ♡」


 そう言ったのはペルセで、何故なぜか両手を広げる。

 すでに師匠が腰に抱き付いているのだが、気にしていないようだ。


なんでだよ」


 俺は思わず、ツッコミを入れてしまった。

 暑い中、くっついても汗をくだけである。


 ムーッ!――と今度はペルセがほほふくらます。

 さっきまで機嫌が良かったのに、いったいなんなのだろうか?


「どうせ、姉さんとは連絡を取り合っているんだろ?」


 無理矢理、俺に抱き付いて来ようとするペルセの頭をつかみ、動きを封じながら、俺は氷那姫へと言葉を投げ掛ける。


 ペルセと一緒にいる経緯いきさつも知っているクセに『彼女』などと言ったのだろう。

 そもそも、ペルセを『連れて来い』と言ったのは里の長老たちである。


「そういう事じゃないんだけど……」


 征一郎に言っても、仕方ないわよね――と氷那姫にあきれられてしまった。

 なんだか納得いかないが、


「せーいちにゃーだから仕方ないにゃん☆」


 師匠まで同意する。更には、


「そうですね、セーイチさんだから」


 ハァ—―と溜息をくペルセ。

 俺に抱き付くのをあきらめたのかと思った途端とたん、左手をほほに当て――その左手のひじを右手で押さえながら――コクコクとうなずき、氷那姫の言葉に同意する。


(いったい、俺のなにが不満だというのだろうか?)


 これだから、女性は苦手なのだ。

 まあ、いいわ――と氷那姫。


「改めて、自己紹介をします。わたしは『氷柱氷那姫』……」


 この朴念仁ぼくねんじんの面倒を見ていたの――と相変わらず、ひどい言われようである。

 いったい、俺がなにをしたというのだろうか? そこへ、


「のあーっ! 見付けた!」


 と別の少女の声が響く。面倒なのに見付かってしまった。


「俺は居ないと言ってくれ」


 氷那姫に頼んだのだが、


「もう、手遅れよ」


 とことわられてしまう。取り付く島もない。


何事なにごとです?」


 と首をかしげるペルセに対して、


「見ていれば分かるにゃー」


 と珠子師匠。ヤレヤレと肩をすくめる。

 まるで俺が原因みたいな態度はめて欲しい。


 やがて――はぁはぁ――と息を切らせ、やって来たのは黒髪ツインテールの少女。

 もう一人の幼馴染み『河流かわながれ香夏子かなこ』だということは分かっていたのだが、一瞬、目を疑った。


 昔は髪も短くタンクトップに短パンと少年のようなで立ちだったのが、変われば変わるモノだ。すっかり女の子の容姿になっている。


「ちょっと、氷那ひなねぇっ! あたしを置いていかないでよ!」


 と文句を言う香夏子に対し、


「だって、バスの時間にに合わないもの」


 と氷那姫が返す。

 もっともな理由だと思ったのか、香夏子は――うぐっ!――と押し黙る。


なんだ、そんなに俺に会いたかったのか?」


 俺の問いに、


「バカっ! そんなワケ――てせいにぃ♡」


 悪態をくのかと思っていたが、キラキラとした眼差まなざしを俺に向ける。

 だが、それもつか。ハッとした表情で我に返ったかと思うと、


「べ、別に、征兄に会いたくて急いできたワケじゃないんだからねっ!」


 フンッ! 勘違いしないでよね――とそっぽを向かれてしまう。

 どうやら、しばらく会わない内に面倒な性格になってしまったようだ。


 説明を求めて氷那姫へ視線を送ると――なに言ってるのかしら、この――と残念な人を見るような眼差しを香夏子に向けていた。


「カレンダーに丸をつけて、何度なんども、わたしに確認……」


 もごっ!――と氷那姫。


「わわわわわっ!」


 と騒ぎ立てる香夏子に口をふさがれてしまう。

 相変わらず、騒がしい性格ところは変わっていないらしい。


「すっかり可愛くなったから、分からなかったぞ……」


 久し振りだな――と俺が挨拶をすると、


「えっ! 可愛い♡」


 そう言って頬を染め、両手を頬に当てると――イヤン♡――とした後、


「あ、あたし、そんなに待っていたワケじゃないんだからねっ!」


 バカッ!――と捨て台詞ゼリフいて、走り去ってしまった。

 いったい、なにがしたかったのだろうか?


「こんな感じにゃ~♪」


 と告げる珠子師匠の言葉に、


「なるほど、よく分かりました」


 と答えるペルセ。こっちはこっちで、なにが分かったというのだろうか?

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