第2話 幼馴染みとの再会


 バスが停車し、降りる俺たち。

 師匠とペルセを先に行かせ、重い荷物は俺がすべて運ぶ。


 ここが終着点なので、バスの運転手も少し休憩とっているようだ。

 この【隠れ里】出身の怪異で【餓者がしゃ髑髏どくろ】の異能を持っている。


 里に来た人間たちの監視および報告をしているのだろう。

 まあ、観光地ではないので、里へ来る人間は限られている。


 取りといえば、空気と景色がいい事くらいだ。

 娯楽ごらくの少ない里のため、若者にとってはひどく退屈な場所だろう。


 東京から電車と飛行機を使い、長い距離を座って移動したため、腰が痛い。

 生まれ育った里に『無事に到着した』という安堵感よりも、狭い場所からの解放感に俺は喜ぶ。


 一旦、バス停に備え付けられたベンチへ荷物を置くと、


「うーんっ!」


 俺は声を上げ、身体を伸ばした。同時に、


「うふふ♪」


 と楽し気な女性の声が聞こえる。

 俺の様子を見て笑った――という事は、すぐに分かった。


 視線を向けると、そこにはしとやかそうな女性が一人たたずんでいる。

 麦わら帽子に白いワンピース姿。


 まるで都会から避暑にやって来た、お嬢様のように見える。

 長い髪は光の反射により、白銀に輝く。


 整った顔立ちは、和服もよく似合うのだろう。

 『氷柱つらら氷那姫ひなき』――彼女は【雪女】の末裔まつえいでもあった。


 大方おおかた、屋敷から俺たちをむかえに行くよう、指示を受けたのだろう。

 俺より一つ上の幼馴染みだ。互いに呼び捨ての関係である。


氷那姫ひにゃき♪」


 と声を上げたのは珠子師匠。

 早速、氷那姫へと飛びついたのは『懐かしさから』だけではないのだろう。


 【雪女】だけあって、彼女の周囲は涼しい。

 女の子同士は気軽にそういう事が出来てうらやましい限りだ。


 その一方で――誰です?――と疑問符を頭に浮かべ、首をかしげるペルセ。

 日避けのための傘を鞄から取り出し、渡してやる。


「幼馴染みの氷那姫だ……」


 よお、久し振り――と俺は声を掛ける。

 彼女は珠子師匠を抱いたまま、


「ええ、久し振り……」


 連絡も寄越さないから、帰ってこないかと思っていたわ――と返されてしまう。

 それに関しては面目無い。


「悪い、色々あって忘れていた」


 と俺は視線をらす。話題の少ない村である。

 迂闊うかつに情報を流すと、あっという間に広まってしまうに違いない。


 俺はそれを警戒したため、連絡は極力避けていた。

 プライベートというモノがほとんど存在しないのだ。


「へー……」


 彼女を作るひまはあったのに?――と氷那姫。

 相変わらず、俺を揶揄からかって遊ぶのが趣味のようだ。


 ピキピキッ!――と音を立て、空気が凍る。

 しばらく会わない内に、異能の力に目覚めたようだ。


「ううっ! 寒いにゃ、寒いにゃ」


 と珠子師匠。抱き付いたのがあだになったらしい。

 ブルブルと震え始めた。


「彼女じゃないし、師匠を解放してやってくれ」


 俺は虫でも払うようにしっしと手を振る。

 そんな俺の態度に、


「もうっ!」


 と不機嫌な表情になる氷那姫。

 久し振りに会ったのに――といった所だろうか?


 しかし、珠子師匠に関しては――ごめんなさい――と言って素直に解放してくれた。


「寒かったにゃー」


 ガタガタと震えながら、師匠はペルセへと抱き付く。

 よしよし――とペルセ。彼女は師匠の頭をでると、


「彼女で聖女の『ペルセ』です」


 ペコリと頭を下げた。追放されたため、今の彼女に名乗る苗字ファミリーネームなどはない。


「ええ、話は聞いているわ」


 征一郎の幼馴染みの氷柱つらら氷那姫ひなきです――と互いに笑顔で握手を交わす。

 なんだろう? 二人の間で一瞬、火花が散ったような気がする。

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