読者への挑戦状 ~whodunit & howdunit~

 今淵とエウレカのメンバーたちは事件の真相に辿り着いたようだ。

 そして、そのための材料は読者諸君の前にも全て提示された。ここで問おう。

 この事件の犯人は次のうち誰だろうか?


 A:海野京子

 B:両国雅照

 C:堂本恒通

 D:海野京子と両国雅照の共犯


 そして、犯人はどのようにして密室トリックを成功せしめたのだろうか? これまでのヒントをもとに考えてみよう。


・現場のラボと同じ構造の建物が、ラボの近くにはある。もし、現場のラボと同じ位置に防犯カメラが設置されていれば、現場のラボと同じような映像が撮影されているだろう。

・仙石廉次郎の遺体を発見した時にロボットが動き回っていたという京子と両国の修験はウソだった。ロボットが動いていたことにしなければ、とある行動の説明がつかなくなってしまうからだ。

・メディア嫌いの仙石廉次郎と堂本は事件当日に初めて顔を合わせたことになっている。仮にそれが仙石廉次郎ではなかったとしたら……?

・警察が押収、分析した映像には、現場のラボに設置された防犯カメラのものだという前提がある。仮にそれが別の場所の映像だとすると、事態の様相は変わるだろう。

・両国が撮影した試撮映像は、周囲の人間に配慮して街の様子を映さなかったのだろうか? 街の様子を克明に写していたとすれば、彼の歩いたルートは明確になるが、実際にはそうなってはいない。

・防犯カメラの映像は画質は良くなく、仙石廉次郎の顔をしっかりと捉えたものでもない。映っていたのは本当に仙石廉次郎だったのだろうか?

・京子はロボットを止めるためにケーブルを何本も引き抜いたと証言した。しかし、防犯カメラのLANケーブルは誤って引き抜けるようなものではない。そのコネクタの構造は、電源を供給するケーブルのそれとは異なるはずである。京子は意図的に防犯カメラのLANケーブルを引き抜き、それを隠すために他のケーブルも引き抜いたのではないだろうか?

・両国は警察への通報の前に自分のスマホで京子を呼んでいる。この順番が逆だとすれば、京子への連絡は相当に後ろ倒しになっていただろう。そうなった場合、京子の姿は防犯カメラには映らなかったはずだ。

・京子と両国がロボットについて揃って虚偽の証言をしたという事実は、2人がそう証言する動機を共有しているであろうことを示唆している。

・事件当日、完全な初対面であった仙石廉次郎と堂本だが、京子か仙石廉次郎がその場で紹介をしなければ、堂本は相手が誰かを認識できなかっただろう。

・事件当時の出来事を時系列順にまとめたことで、仙石廉次郎を殺害した犯人が、少なくとも防犯カメラに捉えられている時間に防犯カメラが設置された場所に出入りしていなかったことは確定的な事実となった。

・京子がロボットを止めるためにケーブルを何本も引き抜いたのではないことは明白で、さらに防犯カメラのLANケーブルは意図的に外そうとしなければ引き抜くことが難しいということも明らかだ。となれば、京子は防犯カメラのLANケーブルを引き抜くことが目的だったと推測しても問題はないだろう。

・IP電話は音声データをパケット化するVoIPゲートウェイがあれば、通常のインターネット回線に繋ぐことで通話することができる。そして、緊急通報の際にはその電話の契約者住所──この場合には、現場となったラボの住所が通信指令センターに通知されることになる。では、別の場所にIP電話機を移し、そこから電話をかければどうなるだろうか? それがもたらす効果を考えれば、両国がスマホで警察に通報しなかった理由も自ずと導き出されるであろう。スマホを始めとする携帯電話からの緊急通報の場合、GPSによる位置情報が通信指令センターには通知される仕組みになっていることは一般的に周知の事実だ。

・防犯カメラの映像に収められている場所が、通報によって警察が駆けつけたのと同じ場所でなかったとすれば、この密室トリックはあっという間に氷解するだろう。


 もちろん、ここですぐに解答編に進むもよし、ミステリの読者としての矜持を示すために問題編を読み返して推理をするもよし。

 どちらにせよ、この頭脳ゲームを制するための手掛かりはあなたの手の中にある。

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