最終話
週明けの学校。
放課後。優香は京子と一緒に教室でダラダラしていた。
「そーいやユーカさー」
「んー?」
「あのアリスって子、結構ヤバいらしいよ」
聞き捨てならない京子の言葉に、優香はスマホから顔を上げる。
「何で?」
「なんかメンヘラみたいな? 中学ん時にそれで問題起こしたらしーよ」
「問題?」
「同級生ストーカーしたんだって」
「それマジで言ってる? くだんない噂とかならキレんだけど」
優香の問いに、京子も相手の目をまっすぐ見返して。
「あーしがこーいうことテキトー言うと思う?」
「……」
数秒ふたりは睨み合ったが、やがて優香はため息を吐いて立ち上がった。
「どこ行くん?」
「職員室。プリント出すの忘れてた」
「あっそ。んじゃ私は先帰るかな」
「はいはい。じゃね」
「あっ! てか夜あけとけよ。打ち合わせすっから」
京子が釘を刺すと、優香は振り返りもせずに手を振って教室を出ていった。
「……よけーなこと言ったかな?」
京子は少し重たい気分になりながら、自分も教室を出た。
そのまま昇降口まで降りて、下駄箱のロッカーから靴を取り出そうとして――ダンッと後ろから手が伸びてきた。
「!?」
驚いて振り返った京子の目に映ったのは、先程話題に出たアリスの姿だった。
「……何?」
「京子先輩。もう優香先輩に近づかないでください」
あまりに単刀直入すぎる言い方に、京子は不快そうに眉根を寄せる。
「てか後輩にそんなこと言われる筋合いないんだけど?」
京子はアリスを睨みつけるが、相手はさらに鋭い目で睨み返してくる。
「あなたが邪魔なんです……優香先輩に変なことまで吹き込んで」
「……!」
教室での会話を聞かれていたと気づき、京子はバツの悪い顔をする。
「……ダチに懐いてるのがアブネー奴だって知ったら忠告ぐらいするだろ」
やや言い訳っぽくなってしまったが、京子は本心からそう言った。
「優香先輩は私のこと危ないなんて言いません……いつもかわいいって言ってくれるんです」
「……」
「皆は私の趣味を不気味とかキモいって言うのに、先輩は私の好きなものを認めてくれた。あんな風に言ってくれたのは先輩だけ」
ブツブツと独り言のように言いながら、アリスはロッカーをダンッダンッと叩く。
「京子先輩がこれ以上私たちの邪魔をするなら……」
「……っ!」
その時のアリスの目を見た京子の背中に冷たいものが走り、恐怖を覚える。
この後輩に自分は何をされるのか――そう彼女が息を呑んだ時。
「アリス。キョーコに何してんの?」
職員室にプリントを出してきた優香がそこに現れた。
「優香先輩……!」
思わぬ本人の登場にアリスが慌てる。
優香は無言で彼女に近づく。
その眼光にアリスはたじろぎ、トンッとロッカーに背中をつける。
優香は彼女の顔の横に手を突くと、間近から相手の目を覗き込んだ。
「何してたのって訊いてんの」
「そ、それは……」
言い澱むアリス。
埒が明かないと、優香は京子の方を振り返って。
「キョーコ、説明」
「あー……あんたとあーしが一緒にいるのが気に食わないんだって」
「何で?」
「知らね。もっとあんたと一緒にいたいからじゃん?」
京子の雑な説明を聞き、優香は再びアリスの目を見つめる。
「アリスさ、私のこと好きなん?」
「うぇっ!?」
直球ストレートを喰らい、アリスの顔が真っ赤に染まる。
「だったらさ」
優香は俯いたアリスにも容赦せず、そのあごをクイッと持ち上げる。
「キョーコのこと詰める前に、私に言うことあるでしょ」
「……!」
やや遠回しだったが、アリスには優香の言わんとしていることが伝わったらしい。
「~~~」
彼女は真っ赤だった顔をさらに火照らせ、もはや湯気が出るんじゃないかというくらい熱くする。
それでもなお優香は容赦しない。
アリスの顔を固定して目を逸らせないようにして、お互いに近距離で見つめ合う。
彼女の力強い目力が、逃げんな、と無言の圧をかけていた。
「……き……です」
「ん?」
「……好き、です、先輩。私と……付き合って、ください」
か細い声で、途切れるように、それでもアリスは優香に告白した。
「うん。いーよ」
優香は目元を緩め、微笑んで頷く。
それを聞いてアリスは驚きとともに涙を浮かべ。
「……あーしは何見せられてんの?」
一部始終を見ていた京子はぼやくように呟いた。
▽ ▽ ▽ ▽
その後、アリスを京子に謝らせ、優香はできたばかりのカノジョと一緒に帰り道を歩いていた。
「あの……どうして先輩オッケーしてくれたんですか?」
アリスは優香の腕に抱きついて歩きながら尋ねた。
「アリスがかわいいから」
「ふえっ!?」
やたら火力の高い優香の言葉に、彼女の腕に掴まってないと倒れそうになるアリス。
「でもキョーコとは仲よくしてよ。じゃないと動画編集してくれる奴いなくなるし」
「動画編集?」
「私、ゲームの配信やってんの。あとはメイク配信とかもね」
優香はスマホで自分のYoutubeチャンネルを見せる。登録者数はもうすぐ十万人。
「結構すごいっしょ? このまま将来は配信者目指したいんだよねー」
そこで優香はイタズラっぽい視線をアリスに送る。
「それに家でできる仕事なら毎日イチャイチャできるし、将来アリスに『私と仕事どっちが大事なの!?』って言われる心配もなさそーじゃない?」
「そ、そんなこと私は言……いえ、言いそうですね、はい」
「あははっ」
優香は笑い、アリスの耳元に口を寄せて。
「どうせなら今度、一緒にカップル配信とかしちゃう?」
そう囁かれて、アリスの耳は告白の時と同じように真っ赤に染まった。
地雷女にやさしいギャル べにたまご @Kanzetsu
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