幕間(第22.5話)

 「清明君、尻に敷いたらしいよ。」

 のトコです。早紀ちゃん無双。


*********************



「……また来たのか。

 こっち見んなって言ったろうが。」


「……。」


「なんだよ。髪なんか切りやがって。

 前のほうがマシだったじゃねぇか。

 俺は短髪の女は嫌いなんだ。」


「……。」


「マジで、葉菜とは偉い違いだな。

 ったく、勿体ねぇことしたなぁ。」


「……。」


「……チッ。

 なんだよ。なんで黙ってんだよ。」



「もう、おわりかな、って。」



「……なん、だと。」



「君、口喧嘩、苦手でしょ。」



 って、留美ちゃんが言ってたから。


(あのさー、あの子、喧嘩なんかしたことないんだよー。

 あのおかーさまが、ガッチリ囲ってるからさー。

 男友達なんて、いないよ?)


 ……ふふ。ほんとだ。

 顔、赤くなっちゃってる。


「……てめぇっ。」



「私が君を嫌いになるようにして、

 私から解消させようとしてるんでしょ?」



「……。」


 あ、黙った。

 留美ちゃん、凄いな。


「君の家、大変そうだもんね。

 ひょっとして、君の優しさかな?」


「図にのるんじゃねぇぞ。

 この下郎が。」


「ふぅん。

 下郎、って意味、わかってる?」


「……は?」


「下郎は人に仕える人、だよ。

 だから、親の言いなりになってる、

 私も、君も、下郎だよ。」


「……っ。」


「そうだね。

 葉菜ちゃん、こんなこと言わないもん。

 優しく癒し声で聞いてあげてたんだもんね。」


「……あぁ。

 そうだな。本当に。

 お前とは」


「でも君、

 葉菜ちゃんに棄てられたじゃない。」


「っ!」


「あはは。

 好きだったんだったら、大事に大事にすればよかったのに。

 ほんとに勿体ない。」


「……。」


「逃がしてあげたつもりなの?

 葉菜ちゃん、そんなことしなくても、

 逃げようと思えば、いつでも逃げられたんだよ。」


「!?」


 ……なんだよ、ね。


(葉菜もさー、

 時間を掛けるつもりだったんだよー。)

 

 時間を掛けて、力を蓄えていくつもりだったんだろう。

 急ごうとしなかった、一つの理由は。

 

「君を、傷つけないためだよ。

 東郷清明君。」


「……。」


「でもね?

 葉菜ちゃん、そうも言ってられなくなっちゃったんだ。」


「……?」


「葉菜ちゃんが好きな人に、

 強力な恋敵ができちゃったから。」


「……葉菜が、好きな奴、だと?」


「あれ、知らない?」


「……誰、だ。

 誰だ、そんなやつっ。」


 あぁ。

 そこまで、なにも知らされてないんだ。

 親からも、周りからも。


「あはは、言ってあげない。

 君に言ったら、葉菜ちゃんにも、

 葉菜ちゃんが好きな彼にも、恨まれちゃいそうだから。」


「……教えろ。」


 うわー。目、澱んじゃってる。

 ごめんね、真人君、

 粘着な子に、名前、知られそうだよ。


「知って、どうするの?」


「……。」


「怒鳴り込みにでもいく?

 俺のオンナに手を出すなー、って。」


「……そんなこと、しねぇってんだよ。」


 あぁ。

 ほんとだ。

 悪い子じゃ、ないんだ。


「じゃ、なにしに行くの?」


「……教えねぇ。」


「あ、そう。

 じゃ、私も君に教えない。」


「っ!?

 ……って、最初から教えるつもりなんかねぇだろ。」


「あはは。」


「なんだよ。」


「結構よく、聞いてくれてるんだなって、私の話。

 うちの家族より、ずっと。」


「……っ。

 なんか、調子、狂う……。」

 

 ……なんか。

 ちょっとだけ、楽しい。


「ねぇ。」


「んだよ。」


「葉菜ちゃん、君と別れた今、

 何をしたいんだと思う?」


「……知るかよ。」


「そっか。

 じゃ、君は、私を避けて、何をしたいの?」


「……。」


 やっぱり。

 私と、同じ。

 んだ。


 葉菜ちゃんのことを好きだったのに、

 葉菜ちゃんを大事にできなかった。

 

 自分が、嫌いだから。

 私と、同じで。

 

「ね。

 契約、しない?」


「……は。」


「私に、協力して。

 私が好きになれて、親に納得して貰えるような人が見つかったら、

 君との婚約を、私から、解消してあげる。」


「……なんだよ、それ。」


「君、私のこと、嫌いなんでしょ?」


「そうは言ってねぇよ。」


「じゃ、なんで嫌われるようなこと、言ったの?」


「……。」


 んもう。

 これじゃまるで、小学生みたいじゃない。

 なんで、こんな風になっちゃったんだろう。

 やっぱり、母親かな。


「嫌われるようなこと言ったら、駄目だよ。

 自分のこと、もっともっと嫌いになるから。」

 

「……お前は。」


「ん?」


「お前は、自分のこと、嫌いなのか。」


「うん、大嫌い。

 だから、自殺した。」


「!」


「失敗して、生き残っちゃったの。

 だから、こうやって、君の前にいる。」


「……そんなに、俺のことが。」


「うーん。まったくないわけでもないよ?

 でも、これは私の問題。

 私が、大切にしたかった人を、傷つけちゃったから。」


「……。」


「でも、

 生きてていい、私には価値があるんだって、

 言ってくれる人がいたから。

 なんか、死ぬ気が失せちゃった。」


「……

 お前、そいつのこと。」



「うん。

 愛してる。海よりも深く。」



「……なんだよ、それ。」


「でも、その人は、私には届かない。

 私に振り向いてくれることは、絶対にない。」


 ……言ってて、哀しくなりはするけど。

 それでも、絶望はしない。


 光を、貰ったから。



「君も、恋をしなよ。」



「……は。」


「は、じゃなくて。

 君、そんな悪い顔じゃないし、

 人の話はちゃんと耳に入れてるし、

 歪んではいるけど、人に気遣いもできるわけだから、

 曲がった心を直すだけでいいんだよ。」


「……無理だ。」


「親?」


「!」


「親、選べないからね。

 君も、私も。」


「……。」


「だから、君が、

 親なんてげしっ! ってできるような、

 素敵な人が見つかったら、君から、婚約を解消してよ。」


「……なんで解消前提なんだよ。」


「だって君、私のこと、嫌いでしょ。

 嫌いじゃなきゃ、あんな酷いこと、言わないと思うな。」


「……。」


「だから、あんなこと言っちゃ、駄目だよ。

 女の子はね、ずっと、ずっと覚えてる。」


「……そうかよ。」


「うん。

 死ぬまで覚えてるよ。」


「……っ。」


「分かった? だから、もう言わないで。

 思いついたことを考え無しに言うなんて、子どものやること。

 それか、私達の嫌いな親戚達とか、かな。

 ああはなりたくないでしょ?」


「……。」


「私が、君を、いい男にしてあげる。

 葉菜ちゃんが、ちょっとだけ惜しかったかも、って思うくらいに。」


「ちょっと、なのかよ。」


「うん。

 いまなんて、零点一ミリも思ってないよ?」


「……。」


「あはは。落ち込まないの。

 いっぺん死んでみる?」


「……お前。」


「あははは。


 ね。

 一緒に、親達と戦おうよ。

 君となら、できそうな気がするから。」

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夢で見た、疎遠になったクラスメートを助けたら、修羅場がはじまった @Arabeske

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