第2話 天使のお茶会

 

 今日の朝日はまだ毛布に包まっているみたいだ。

そのせいで地上は明るいとも暗いとも言えない天気になってしまった。幸いまだ地面に小さな池は出来てないが、木々が激しく風に揺られてるのを見るとあとちょっと先の未来では水が雲から落ちてきそうだ。

アンジェロは退屈そうに自分の背丈よりも遥かに高く冷たい窓に手当てながら外を見つめた。

「はぁ、今日の予定は中止ね。」

アンジェロは心底残念そうに呟いた。

「今日の予定って?僕は何も聞いてないけど」

受付カウンターに飾ってる(絵)が話しかけてきた。

「実は今日はお庭で本を読もうと思ってて、せっかくお気に入りの紅茶とお菓子を用意したのに。」

アンジェロは後ろの(絵)に目線を合わせた。

すると絵の少年は盛大に笑いながら言った。

「お気に入りの紅茶?君は紅茶が苦手じゃないか、君の好きな飲み物はココアだろ。前に紅茶を初めて飲んだ時苦いって言ってそのあとは一口も口を付けなかったじゃないか。アンジェロは正真正銘お子様舌なんだから。」

そのことを聞いたアンジェロはふんっとそっぽを向いて腕を組んだ

「なによ、レディに対して失礼ね。私だって少しは立派なレディになりたいからこうやって練習しようとしてるのよ。今日は折角あなたも外に出して日陰で一緒にお茶会しようとしたのに。」

そう言ってアンジェロはもう一回鼻を鳴らしてそっぽを向いた。それに慌てたように絵の少年が話した。

「それは失礼いたしました、レディ。てっきりアンジェロが僕を置いて一人で優雅にお茶会をするのかと思ってつい意地悪な事を言ってしまった。どうすればこの僕を許してくれるかい?」

そうするとアンジェロはこっちを絵の少年の方を向きなおして、にっこり花のような笑みを浮かべた。

「しょうがないわね。今日は予定変更して中で雨音を聞きながらお茶会するわ。貴方が私を楽しませてくれたら許してあげる」

そう彼女は先ほどの花のような笑みからおしゃまな少女の笑みを浮かべた。それを見た絵の少年が少し微笑んだ、そんな筈ないのに。

「仰せのままに」


 雨音が響く中、薄暗い美術館で今一番明るい外の景色と一緒になれる大きな窓ガラスの前にアンジェロと(絵)が小さな円形のテーブルを囲って座ってた。

傍から見ると奇妙な光景である。

「予想通り雨降ったわね。静かな雨を期待していたのだけれど、土砂降りね。はぁ、」

アンジェロは本日二回目のため息を吐いた

「こんなんじゃ作品にカビが生えちゃうわ。」

アンジェロの瞳が絵の少年に向いた

「僕はどんなに放置されても腐らないよ。」

ティーカップに入ったココアが揺れた

広く狭い空間で時が止まった

その間も雨音が無常に鳴ってる

「そんな顔しないでよ、アンジェロ。」

「君にそんな顔させたいわけじゃないだ。」

「それに長生きもそんな悪くないさ。」

アンジェロが静かに半透明の窓の自分と目を合わせた

「長生き、貴方は生きてるの?」

絵の少年が上品に笑った

「生きてる人間が命を、魂を込めて僕を描いたんだ。僕は生きてると思ってる。アンジェロ、君はどう思う。」

「私も貴方が生きてると信じたいわ。でも貴方は私と約束出来ないでしょ。」

アンジェロの指が愛おしむような憐れむようにティーカップの縁を撫でた。

「ごめん、それは約束出来ないな。出来ることなら僕だって君と一緒に天国に行きたいよ。」

絵の少年の瞳が揺れた、そんな筈ないのに。

「私たちが天国に行くことは確定なのね。」

アンジェロの口元が柔らかくなった

「当りまえさ、僕は今まで一度も悪いことはしてないし、そもそも出来ない。それにアンジェロ、君は天使だろ。そしたら天国に行くことは決定してるじゃないか。」

絵の少年の声色が得意げに聞こえた。

ガラス窓から少し暖かい日差しが差し込んできて

小鳥のさえずりが聞こえた

それを合図にするかのように寂れた美術館から少年と少女幸せな声が聞こえた。


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天国の遊び 雨雲天国 @amagumo_tengoku

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