真夏の大冒険

「あっちーよー」


 ギラギラする太陽に焼かれないように日かげに移動したものの、暑すぎてどうなかなりそうなオレ。


「そりゃ、夏だもの……」


 同じようにへばっているリョウタは、食べ終わったアイスの棒をくわえている。


「だから、クーラーのある家の中で遊ぼうって言ったじゃん」


 マナブが呆れたようにコウギする。


「だって、セッカクの夏休みだぜ?やっぱ外で遊びたいじゃん」

「でもさ、最近は外で遊んではいけませんってテレビで言ってるよ?」

「そりゃ、熱中症になるからな」

「そいやさ、夏休みの宿題やってる?」

「なんとなく?」

「終わったよ」


 マナブは頭がイイとはいえ、もう終わったとはオドロキでオレとリョウタはマナブの方をゼンリョクで振り返る。


「は?早くない?」

「すげー、もう終わったの!!」

「まぁ、日記は残ってるけど」

「日記かぁ。『今日は暑かったです』しか書くことねぇんだよな。田舎過ぎて特になんかイベントがあるわけじゃないし」


 遊ぶっていったら、川にいくか森で虫捕りするぐらい。

 しかも、危ないから川は流れのゆっくりな所とか森も奥にいっちゃダメ。

 隣町に出たって、ふるーいゲーセンがあるくらいだ。


「なんか、スリムとサスペンションな日常がそこらにポロっと落ちてないかなぁ」

「ケンちゃん、それを言うならスリルとサスペンスだよ」

「そんな危険がポロっと落ちてたらやだよぅ」


 気弱なリョウタがマユゲを下げて、マナブがヤンワリとテイセイを入れてくる。


「くそーーー、セッカクの夏なんだから、なんか話題がほしいよなぁ!!」

「そういえば、なのねーちゃんが言ってたんだけどさ」


 なのねーちゃんは、リョウタの姉で色々噂話を仕入れてきては、リョウタをカラカって遊ぶのが好きなのだ。

 見た目優しそうなホンワカ系なのに、オオザッパで勘で生きているところがある人である。


「隣町に降りてく道の途中で分かれ道あるでしょ?」

「あぁ、川に行く方な」

「そっちじゃなくて、もう一本奥側」

「あー?そういやあるな。行ったことないけど」

「あそこの道いくとお化け屋敷があるらしいよ」

「お化けヤシキ?ユウエンチとかにあるやつ?」

「そうじゃなくて、なんていうか……誰も住んでない建物のやつ」

「廃墟か?」

「そうそれ!!なんか蔦とかグルグルですごいらしいよ」

「へー、面白そうだな」


 リョウタの話を聞いて、オレは持っていたアイスの棒を袋に戻しながら、二人にテイアンする。


「なぁ、今からそこを見に行かないか?」




 とりあえず、一回解散して家に必要なものをとりにいくことになった。

 昼御飯を食べて、隣町へつながる道に集合の約束をしたのだ。

 ワクワクする気持ちを押さえながら、ヒツヨウな物を考える。

 冒険といえば、まずは懐中電灯だろ。あとは非常食か。暑いし飲み物もいるよな。


 オレは、部屋に戻るなり早速荷物をマトメる。

 小さめなリュックサックに懐中電灯、ペットボトルの緑茶、カシパンを入れる。


 そしてお昼ごはんのキャベツの代わりにモヤシの入ったヤキソバをかっ込む。


「あんたは……もうちょっと落ち着いて食べれないの?」

「むもも、むんんむんぐ」

「飲み込んでからしゃべりなさい!!いつも言ってるでしょ」


 母に思い切り頭を叩かれる。


「んぐ!!なにすんだ!」

「で!!なんだって?」

「だーかーらー、早く遊びにいきたいの!!」

「よく噛んで食べないと喉につかえて死ぬわよ」

「ふん。年寄りじゃないから大丈夫だい!」


 まだまだオレはワカイのだ。


「兄ちゃん、僕も一緒に遊びにいっていい?」


 となりに座っていた弟の良明よしあきに聞かれる。


「だめ。お前はまだ小さいからな」

「僕だって小学一年生だよ」

「一年なんてまだまだ子どもだよ」

「こら!お兄ちゃんでしょ。弟をいじめるんじゃありません」

「じゃあ、お前にアラタなニンムをあたえる。ジタクの警備をたのんだ!分かったな!」


 母にグチグチと言われる気配を感じて、急いで残りのヤキソバをお茶で流し込む


「頼んだぞ、良明隊員!ごちそうさまでしたっ」


 急いで部屋に用意したリュックを取りに戻り、お気に入りのキャップ被る。

 そして、玄関ではき慣れたスニーカーに足を入れる。


「いってきまーす」


 ジリジリと照り付ける太陽のなか、オレは約束の場所へ向かって走った。





「おまたせー」

「よし!ソロったな。行くぞ!」


 集合したオレたちは、サッソクハイキョに向かってあるき出した。

 にしても、相変わらずリョウタは大荷物だった。

 本人イワク、

 なにが起こるか分かんないじゃん。怪我した時用の救急セットとか雨が降ってきたとき用に折り畳み傘とかいるかもだし、とのことだった。


「あと、なのねーちゃんに書いてもらった地図」


 なのねーちゃんの書いた地図を三人でノゾキこむ。

 隣町へ行く道、そこからすぐに川に行く道。

 すぐにまた分かれ道が書かれている。


 その道の先に丸っこい字で「はいきょ」と書かれていた。


「相変わらず、なのねーちゃんの地図、雑だなぁ」


 そんなことを話しながら歩いていくと、地図に書かれた分かれ道にたどり着く。


 ざわざわと木が揺れて、葉っぱがスレる音がする。

 まるで「こっちにおいで」と手招きしているようだ。


「い、行くぞ」

「ままま、待ってよ。怖い」

「大丈夫だって!今、昼間だぜ」


 三人でイチ列になって歩く。

 ザッザッと自分たちの足音が聞こえる。

 オレがセントウで次がリョウタ。シンガリはマナブ。

 リョウタが俺の服をつかんでいるので歩き辛い。


 歩いていると、足音とは別にザリザリという音が聞こえるような気がした。


「なんか、変な音しない?」

「なになになに?」

「しー」


 足を止めて、耳を澄ます。

 ざわざわと頭の上で揺れる木の葉の音以外に小さくザリザリ音がする。

 音がする草むらを三人で見た、その時だった。


 シュルシュルと長細いものが現れた。


「へ、ヘビだ!」

「あ、焦らず、そっと移動しよう」


 ノロリ、ノロリとその場を離れ、十分距離を取ってから走り出す。


 はあはあと息を切らせながら、後ろをみるとヘビはもう見えなかった。


「「よかったー」」


 一安心して前を向けば、ツタにオオワレタ建物があった。


「ついた?」

「たぶん」

「へー」


 ハイキョは、誰かの家だった。

 しかし、オレらの家や近所の家などの見慣れた家の形をしておらず、マシカクだった。


「シカクいな」

「三角屋根じゃないんだね」

「どちらかと言うと、診療所とか市の建物みたいな感じだね」


 最初はボウゼンと眺めていたが、その後はまるで宝物で見つけたかのようにダイコウフンだった。

 しばらく三人でハイキョの廻りを探索したり、窓から中をのぞいたりしたが、とくに変わったものはなかった。


「なんにもねぇな。」

「拍子抜けだね。」

「ま、サスガに中にはいったらフホウシンニュウになるからやめとこうぜ」


 なんて話していたら、トントントン、と玄関の扉を叩く音がした。


「!!」


 建物にはフホウシンニュウはしていないが、誰かの敷地には入っている訳で、オレ等はピシリとその場に固まる。


 トントントン


 逃げよう。

 そう思ったが、サスガにシャザイもなく立ち去ることはハバカラれたため音に向かって返事をする。


「ご、ごめんなさい。誰も住んでないって聞いたので、すぐ帰りますね!」


 トントン


「あれ?音が一個減った」

「なんか返事してるみたい」


 トン


「は?返事、した?」

「たまたまだろ?」


 トントン


「ハイなら一回、イイエなら二回ってやつみたいだね」


 トン


 オレたちの会話にノックの返事が挟まる。


「ほんとに?じゃあ、なんか聞いたら返事してくれんの?あーでも、イエスかノーで答えるやつだけか」


 トン


「あなたは誰?あー違った。このうちに住んでるの?」


 トン


「住んでる人がいるんなら、じゃあハイキョじゃないじゃん」


 トントン


「え?住んでるのに廃墟なの?」


 トン


「そういえば、最初に帰りますって言ったときノックって2回だったよね?」


 よくわからずに首を傾げていると、リョウタがオレたちの服を引っ張る。


「ねねねぇ、これ、みて。」


 ガクブルと震えながら、リョウタが地図を広げている。

 マナブと顔を見合わせながら、リョウタの手元を覗き込む。

 なのねーちゃんの書いた地図の紙の裏のしたの方に小さな字で、「もし、ノックの音が聞こえたら返事をせずに、全力で逃げること」と書いてあった。

 すぐにやばいと思って、二人の背中をバシッと叩いて走り出す。


「走れっ。」


 二人がオレに続いて走り出す。


 後ろで先程までは軽い音だったノック音が扉が壊れるんじゃないかと思うほど、ドンドン、バンバンとオレたちを呼び続けていた。


 なんだかよく分からない恐怖で走り続ける。


 ずっと扉を叩く音が聞こえていて、まるでぴったり後ろに音がついてきているんじゃないかと思うほどだった。

 しかし、振り返る勇気もなく、行きはヘビが、木の葉の音が、と怖かった道をがあっという間に走り抜けていた。


 とにかく早く誰かに会いたくて、すぐ近くにあるさちよばあちゃん家に駆け込んだ。


 最初は驚いていたばあちゃんだったが、今起こったことを説明すると、「あんたら、あの家に行ったんか」というとポツリと言って、黙り込んでしまった。


 どうにか頼み込んで、あの家について教えてもらうことができた。


「昔な、あの家に病弱な女の人が住んでたんよ。家族に見捨てられてあんな箱みたいな家に一人でな。そんな彼女でも友だちがほしくて、でも外に出ることはかなわない。だから彼女は扉を叩くことでコミュニケーションを取っていた。でもな、ある日パタリとノック音が聞こえなくなった。家族に連絡をとり、扉を開けると玄関で息を引き取っていたんよ。それからというもの、お花を手向けにいったり、業者が入ろうとすると誰もいないはずなのにノック音が聞こえると言うようになった。それからは、みんな怖がって誰も近寄らなくなったがな。いまでも一人でさみしいって話相手を探しているんじゃないのかなぁ」


 そういってばあさんは、なんとも言えない顔をしてお茶を一口飲んだのだった。

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夏の冒険 羽入 満月 @saika12

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