第48話

「わたしの名前は『怜愛れいあ』です」

 ジュンの次はレイアちゃんだ。レイアちゃんは自分の名前を書いた紙をみんなに見せた。


「わたしの『怜』の字は、成り立ちから、心が澄み切ったさまを表していることが分かりました。だから、意味はさとい、賢いになります。でも、あわれむ、という意味もありました。


『愛』はみんながよく知っている漢字です。成り立ちから、心がせつなく詰まって、足もそぞろに進まないさまを表していることが分かり、不思議な気持ちになりました。『愛』の意味は、いとおしむ、めでる、というものです。でも同時にかわいくてせつなくなる、好きでたまらなくなる、という意味もあり、成り立ちのことを思い浮かべました」

 レイアちゃんも、ここでいったん言葉を切って、おれたちを見て、それから言った。


「だから、わたしの『怜愛』は、心が澄んだ人になってほしい、賢く、でも同時に人の心を思いやれる人になってほしい、という願いが込められていると思いました」


 みんなが拍手をすると、レイアちゃんはちょっと照れたように笑った。

「漢字を調べて、さらに深く考えたのう。思いやりはじゅうぶんあると思うぞよ」

 大夫たいふはぽわっと光ってくるんと回った。



「では最後に発表します!」

 みんなのすばらしい発表のあとで、きんちょうしてしまう。

 でも、頑張る!


「おれの名前は『和樹かずき』です。平和の『和』に樹木の『樹』で『和樹』。

 調べる前は、こんな簡単な漢字って思っていたけれど、調べてみるといろいろな意味がありました。


『和』の成り立ちは、粟の穂がまるくしなやかにたれたさまで、かどがたたないという意味でした。だから、『和』は、やわらぐ、なごむという意味、そしていっしょに解けあったさま、という意味がありました。


『樹』は、たって生えているさま、という意味です。成り立ちは直立させたさまというものでした」

 おれも、やっぱりここで、いったんみんなの顔を見た。


 ジュンもレイアちゃんもユウコちゃんも、そして大夫もおれのことをじっと見てくれていて、おれの言葉を真剣に聞いてくれているのが分かった。


「『和樹』という名前は、なごやかな人生を生きて欲しい、友だちと力を合わせて人と仲良く生きて欲しい、そして自分の力で立って生きて、大きく成長して欲しい、という願いから生まれた名前だと思いました」


 みんなが拍手をしてくれる。

 誇らしい気持ちになる。


 大夫はふわふわとおれのところに来て、頭をなでて言った。

「和樹は、友だちといっしょに、漢字を勉強したり水泳を練習したりダンスをがんばったりしたのう。大きく成長していると、思うぞよ」

「……うん!」



「優子殿、潤殿、怜愛殿、そして、和樹。みなそれぞれ、きちんと自分で調べて、自分で考えてまとめたところが、ほんとうにいいと思うのじゃ。そして、みな、名前の通り成長しているのう」

 大夫は、ほ、ほ、ほ、と、笑った。


「今日みなの前で発表したことをな、ぜひおうちのひとにもしてみるといいぞよ」

「えー、恥ずかしい!」とユウコちゃんが言い、

「おれも恥ずかしいかも」とおれ。

「でも、きっと喜んでくれると思うよ」とジュン。

「うん、わたしも恥ずかしいけれど、でも喜んでくれるかなって思うから、話したい!」とレイアちゃん。


「……うん、そうだね! 恥ずかしいけど、でもやっぱり言いたいかも」とユウコちゃんが言い、おれも

「がんばって言ってみる!」

 と言った。

「よいのう。きっとすごく喜ぶと思うぞい。何しろの、名前はの、最初の贈りもので、そこには願いや祈りがたっぷり込められているんじゃよ」

 大夫の筆が、ぴかぴかぴかーんぴかーんと光り、大夫自身もぴかんと光った。


 

 みんな、それぞれ自分の名前の漢字の意味を調べた。

 それをみんなの前で発表した。

 みんな、すごくじょうずに発表できた!

 それは、自分の名前に込められた、お父さんやお母さんの願いや祈りを知ることだったんだ。自分自身のちからで。



 なんだか、何かあったかいものが込み上げてきた。涙だ。

 見ると、ジュンもレイアちゃんもユウコちゃんも泣いていた。じわって。

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