第47話

 大夫に、自分たちで調べた名前の意味を披露する日。

 やっぱり、おれんちに集まった。


 漢字の五十問テスト百点だったし、お母さんに「ジュンたち呼んでいい?」というと、どうぞどうぞっていう感じだった。


大夫たいふちゃーん」って、レイアちゃんとユウコちゃんは、相変わらず大夫のことが大好きだ、そして、「大夫ちゃんにおみやげ!」って、しゅりけんをあげていた。

 大夫は「うほほーい、うれしいのう」って言いながら、しゅりけんの上に座ったり、しゅりけんを頭の上に乗せたりして遊んでいた。

 おれは、机の中にしまってある緑のくす玉を思い出して、またちょっとどきってした。


「タチバナ?」

「あ、ジュン」

「そろそろやらない?」

「う、うん! やろう! 大夫、そろそろいい?」

「いいぞよ~。楽しみだのう。誰から発表するのかの?」


「あ、じゃあ、あたし!」

 ユウコちゃんがぱっと手を挙げた。



「あたしの名前は、優子ゆうこです」

 と言って、ユウコちゃんは自分の名前を漢字で書いた紙を出した。


「あたし、自分の名前、あんまり好きじゃなかったの。『子』がつく名前って、かわいくない気がして。でも、調べたら、自分の名前が好きになりました!」

 ユウコちゃんはみんなの顔を見て、そしてノートに目を落とした。


「まず、『優』の字の意味は、やさしい、すぐれる、ゆたか、というものでした。美しくひいでているさま、ゆったりとしていてがさつさがないさま、という意味もありました。成り立ちは、しなやかにゆるゆるとふるまうひとというものです。


 そして『子』です! 成り立ちは小さい子どもの形をかたどったものでした。だから、子ども、という意味ももちろんあるのですが、いつくしむとかふえるという意味があったり、人格のすぐれた人の名につける敬称という意味もありました。このことが分かって、とても嬉しかったです」

 ユウコちゃんはここで、にっこりとした。


「あたしの名前に込められているのは、やさしくてすぐれた子になってほしい、そして、美しく、ゆったりとした上品な人間になってほしい、という思いだと思いました」


 ユウコちゃんがおれたちの顔を見る。

 おれたちはみんな、拍手をした。


 大夫も拍手をしながら、

「よく調べたのう。もうすでにすぐれた子じゃのう」

 と言った。



「じゃ、次はボク!」

 ジュンはノートと名前を書いた紙を持って立ち上がった。


「ボクはじゅんです。

『潤』の漢字の成り立ちから話します。『潤』のつくりの『閏』は『うるうどし』の『うるう』です。二月二十九日がある年のことです。一日多い年です。その『閏』にさんずいがついた『潤』は、じわじわと染み出て余分にはみ出る水分のことでした。


 だから、『潤』には、うるおう、しめりという意味があります。また、あたたかでうるおいがあるとか、色つやをつけてりっぱにするとか、ゆとりをつけてやる、などの意味もありました」

 ジュンはここまでひと息に言うと、ここでいったん区切って、おれたちの顔を見た。


「だから、ボクの名前の意味は、人生を豊かに生きてほしい、そして周りの人にもうるおいを与える人になって欲しい、というものだと思いました」


 みんなジュンに拍手を送る。

 大夫はにこにこしながら、

「潤殿は、もううるおいがあるように思えるのう」

 と言った。


 ほんとうだ。

 おれ、ジュンにいろんなものをもらっている。

 ジュンにうるおいをもらっているよ。

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