第39話
「ふふふふふ」
「みな、やる気じゃのう。うれしいのう」
大夫の筆がぴかぴかっと光って、大夫自身もほわっと光ってくるくると回った。
「それじゃの、次は成り立ちから覚えてみるのはどうじゃ?」
「成り立ち?」
「そうじゃ」
「漢字には、その漢字が出来た成り立ちがあっての。まあ意味とつながるんじゃが、成り立ちから覚えると、覚えるのが楽しいかもしれぬぞ」
「おもしろそう!」
大夫の言葉を聞いて、おれたちは口々に言った。
「うほほーい、うれしいのぅ」
大夫はそう言って、くるくる踊り続けた。
「大夫ちゃんって、うれしいと踊るのね」とレイアちゃん。
「うふふ、かわいい、大夫ちゃん」とユウコちゃん。
「みながの、漢字を好きになってくれると、うれしくて踊ってしまうのじゃよ」
レイアちゃんとユウコちゃんは、きゃあきゃあ言いながら、踊る大夫と遊んだ。
おれとジュンはそのようすを見て、笑った。
「タチバナさ、変わったよね」
ジュンが言った。
「変わった?」
「うん」
「前はさ、いやなことからは逃げようとしていたじゃない? 漢字のこともそうだし、水泳も運動会も」
「ジュンだって! ジュンは、漢字はできたけど、水泳や運動会は、いっしょに『いやだいやだー』って言って、うだうだしていたよ」
「うん、そうだよね。それで、がんばったりしないで、カードゲームしたりしてた」
「そうそう」
ジュンと笑い合う。
「大夫とさ、出会えてよかったね、タチバナ」
「うん」
おれは、筆を拾って、大夫と出会った日のことを思い出していた。
「レイアちゃんやユウコちゃんも、うれしそうだね」
「うん。大夫もうれしそうだ」
大夫が、大人やマサトさんには見えなかったことを思い出す。
きっと、一人はさみしいはずだ。
「がんばればできるって、ボクわかったよ。できないこともあるかもしれないけど、がんばることのたいせつさみたいなものが、わかったと思う」
「おれも。それからさ」
「うん」
「おれね、みんなでがんばるっていうのもいいなって思った」
「そうだね」
「ジュンがいて、それからレイアちゃんやユウコちゃんもいて。もちろん大夫もいて」
「うん。みんながいたから、がんばれたよね!」
「そうなんだ。それにね、おれ、漢字を書くのが苦手なこと、わかってもらえて、それもうれしかったんだよ」
「……タチバナ。ずっと気づかなくて、ごめん」
「ううん。だって、ちゃんと話したこと、なかったから」
「話してくれて、うれしいよ。……親友だからなっ」
「うん!」
おれはジュンと笑い合う。
レイアちゃんとユウコちゃんがこっちを見て、
「何笑っているの?」「どうしたの?」と言う。
「うん、がんばってよかったなって思って!」とおれは答えた。
その後、漢字をいっしょに勉強する日を決めて、景品とおみやげは、わりばしでっぽうとおりがみのくす玉を作ろうかってことになった。
「じゃあ、また明日、学校で!」
「うん、また明日ね!」
ばいばいって別れるときはいつもさみしい気持ちになっていたけれど、なんだか今日はちょっとわくわくした気持ちになっていた。
漢字も文化祭も楽しみだった。
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