第35話

 いつも、運動会の前は落ち込んでいて、お父さんやお母さんに励まされながら、運動会の練習に参加したり、運動会に出たりしていた。


 でも今年は違う。


 運動会の少し前の日。

「今年はなんだか楽しそうね?」

 と、お母さんがうれしそうに言った。

「五年生になって、成長したのかな?」

 とお父さんが笑って言った。

「みんなのおかげだよ」

 それから、大夫たいふの。

 大夫はふわふわと浮きながら、お父さんお母さんとおれの会話を、目を細めてにこにこしながら見ていた。




 無我夢中でやっているうちに、競技が終わった。

 みんな、入場と同じように走って、退場門を出ていく。

 おれも人の波に乗って、いっしょに走る。

 砂が舞い上がる。

 みんなの熱気がすごい。

 音があるはずなのに、聞こえない。

 高揚感。

 


 ダンス、がんばった!

 ちょっと間違えちゃったけど、でも堂々と元気よく踊れた。

 ジュンもレイアちゃんもユウコちゃんも、かっこよかった。

 クラスのみんなも、すっごくじょうずだった!

 そして、五年生のみんなも、とってもがんばったと思う。

 


 曲が終わって最後のポーズを決めたとき、おれの胸にこみあげてくるものがあって、涙が出そうだった。

 それは今まで感じたことのない、感動だった。



「タチバナ!」

 ジュンがおれのところに駆けて来る。

「タチバナくん」レイアちゃんとユウコちゃんも来る。

「ジュン、レイアちゃん、ユウコちゃん!」

「やったあ!」

「がんばったよね!」

「できたよ!」

 みんなで輪になって、肩を組む。


 見ると、他の子たちも、それぞれ仲のいい子たちと肩を組んだりハイタッチをしたりして、感動をわかちあっていた。



「みんな、並んで! 写真撮るから!」

 先生が言い、クラスのみんなが集まった。

 みんな、背中の一文字を誇らしそうにしながら、満ち足りた顔で集まってきた。

 先生がシャッターを切る。

 運動会の歓声がこだましている。

 空があおくて。


 こころが、空の高いところまで飛んでいくような気がした。

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