第33話

「次はわたしの字! 『夢』‼」

 レイアちゃんがはりきって言った。

「では、お手本を見て、ていねいに書いてみるがよいぞ」

「うん、大夫たいふちゃん。わたし、この漢字、好きなの!」


 レイアちゃんはみんなに見守られながら「夢」という字を書いた。


「ほうほう、じょうずに書けたのう」

「ほんと? 大夫ちゃん」

「うむうむ、ほんとうじゃ。美しい字じゃぞ」

 大夫が言うと、レイアちゃんの「夢」がぴかーんと光った。


 

 みんなも「夢」という字を書き終わった。

 そして、ついに「識」を書くことになった!


「もしかして。ううん、もしかしなくても、『識』、書きにくい字だよね」

 とおれは言う。

「とりあえず、書いてみたら?」とジュン。

「うん」

 書くけれど、やっぱりバランスをとるのが難しい。


「『護』のときみたいに、言を意識してみたら?」とレイアちゃん。

「立の下の横棒を、ちゃんと伸ばして書くといいよ」とユウコちゃん。

「うん」

 レイアちゃんとユウコちゃんに言われたことを意識して、ゆっくり書く。ていねいに!

 今度はまあまあうまく書けたように思う。でも。


「もう一回、書いてみる」

 もう一度、真剣に書く。

 言をたて長に書く。その横にバランスを考えて、つくりを書く。立の下の横棒を伸ばすのを忘れない。ちゃんとはねる。


「……できた!」


 自分でも、今まで書いたどの「識」よりもうまく書けたと思った。

 すると、「識」がぴかーんと光り、さらにぴかーんぴかーんと何度も光った。

「よくがんばったの、和樹かずき

 大夫が小さな手でおれの頭をなでた。

 


 なんだか、涙が出てしまった。

 恥ずかしい。

 レイアちゃんもいるのに。

 でもやっぱり、涙が出る。

 あ、でも、大夫のことを教えたとき、レイアちゃの前で泣いちゃったんだっけ。

 あのときは漢字を書くことが苦しくてつらくて。

 がんばっても、漢字を全然覚えられなくて悲しくて。

 そういう涙だった。

 でも、これは違う。

 いっしょうけんめい、がんばった涙だ。

 そうして、うまく字が書けてうれしい涙。



「えへへ。うまく書けてうれしいな!」

 おれがそう言うと、みんな「よかったね!」って笑ってくれた。

 そして、みんなも「識」を書き、それから「織」も書き、大夫も、大夫の書いた字も美しく光った。

 


「最後に、美しく書くポイントのまとめをしようかの」

 と大夫が言った。


「①ゆっくりていねいに書く

 ②バランスを考えて書く

 ③字をよく見て書く

 この三つがだいじじゃの」


「ねえ、③の字をよく見て書くって、どういうこと? ②は『護』みたいな字のことだよね」とおれが言うと

「『潔』みたいに、さんずいの横につくりがある、とかじゃない?」とジュン。

「そう言えば、『準』は、下に大きな十があるじゃない? そういうのもよく見ればいいってことよね?」とユウコちゃん。

「わたしは『編』の字を間違えて覚えていたの! これも、よく見て呪文唱えながら書いたら、いいのよね!」とレイアちゃん。


「そうじゃそうじゃ。いいこたちじゃのう」



 大夫がほ、ほ、ほ、と、とてもうれしそうに笑って、ぽわぽわと光って、その光が大きくなっておれたちを包み込んだ。

 おれたちみんな、なんだかすごくあったかい気持ちになって、いろいろなことががんばれるような、そういう気持ちになった。



「運動会のダンス、がんばろう!」

 きっと、だいじょうぶ。

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