第32話

「次はあたしの字、『潔』ね!」

 と、ユウコちゃんが言うとレイアちゃんが

「この字も難しいよね」

 と言って、みんなうなずいた。


「うほほ。この字はの、たてに長く、おおきなさんずいを書くことがだいじなんじゃ」

 みんな、たてに長く、おおきなさんずいを書く。


「おおきなさんずいの横につくりを書くんじゃ。ざんずいからはみ出さぬようにな。上の右は刀じゃよ。おおきなさんずい、横たて横横、刀、下に大き目の糸じゃ」


「おれ、糸の上に全部乗っていると思ってた!」

 おれがびっくりしてそういうと、レイアちゃんとユウコちゃんが

「どっちかなって、いつも悩んでた」

 と言った。

「ほほほ。たてに長く、おおきなさんずい、と覚えておくがよいぞ」


 みんな間違えずに「潔」と書いた。

「あたし、自分の字だから、もう一回、きれいに書いてみる!」

 ユウコちゃんはそう言って、真剣なまなざしで「潔」と書いた。ゆっくりていねいに。


「できた!」

 ユウコちゃんがそう言うと、ユウコちゃんの「潔」がぴかーんと光った。

 ユウコちゃんは「うれしい!」と言って笑った。



「快」と「統」は、ゆっくりていねいに書いたらきれいに書けた。

「次の『導』は、いつもはみ出しちゃうやつ!」

 とおれは頭を抱えた。

 見ると、ジュンもレイアちゃんもユウコちゃんも、もうきれいに書き終わっていた。


「上の道っていう字をね、横に長く書くといいんだよ」とジュン。

「そうそう。道を大きく書いちゃうとね、はみ出しちゃうのよ」とレイアちゃん。

「あたしはゆっくり、幅を考えて書いたら、今日はうまく書けたの」とユウコちゃん。


「えーと、上の道を大きく書かないで、横に長く書く、と」

 おれは慎重に「道」を書いた。下に「寸」を書く。

「あ、書けた! ……と、思う」

 大夫が書いた、「導」がぴかーんぴかーん、、ぴかーんと大きく光った。


「うほほほ。みながの、一生懸命だから、字も喜んでおるの。自分たちで考えることは、とてもいいことじゃ。わしもうれしいぞよ」



「賛」「徳」「武」も、ゆっくりていねいに書いていった。

 大夫に教えてもらった意味をよく考えながら。


「ねえ、意味を考えながら、ていねいに書くのって、いいね」とレイアちゃんが言った。

「分かる!」とユウコちゃんが言って、ジュンもおれもうなずいた。


 今まで、宿題のためにマス目を埋めることしか考えていなかった。それでは全然覚えられなかった。でも、いま、意味をちゃんと理解して、意味を考えながらゆっくりていねいに書くと、不思議に頭に入った。

 覚えたっていうあかしとして、筆がぴこーんと何度も光って、大夫も楽しそうにくるくると踊っていた。


「漢字はな、美しく書くと覚えられるのじゃよ。美しく書こうとする意識が大事なんじゃ」

 大夫は、ほ、ほ、ほ、と笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る