第31話

「『衛』も難しいよ。どうしたらいい、大夫たいふ

 おれは画数の多さに暗い気持ちになりながら言った。


ぎょうがまえの間に入るもののバランスがだいじじゃな」

「うん」

「五の上の横棒がないのを書くとき、ぎょうがまえより少し上に書くんじゃ。その下に書く、年の中の部分を大きく書き過ぎないようにするんじゃよ」


 大夫の言葉をよくきいて、おれたちは真剣にノートに書いた。

 ゆっくりていねいに。

「出来た!」

 今までは全然うまく書けなかったけれど、なんだかうまく書けたような気がする。


 

「賀」はわりと書きやすかった。でも、真剣に書く。

「技」も「基」も「永」も、ゆっくりていねいに書けばきれいに書けた。


「タチバナ、きれいに書いてるじゃん」とジュン。

「ほんと! フリクションっていいのかも」とレイアちゃん。

「青色っていうのもいいかも。目に優しい感じで」とおれ。

「シャーペンもいいよ、丸くならなくて! ね、ジュンくん!」とユウコちゃん。

「うん!」とジュン。



「じゃあ、次は『幹』じゃの」

 と大夫が言った。

 ジュンは自分の字だから、いっそう真剣な目をしてうなずいた。


「幹」と、大夫が空中に字を書いた。

「へんよりつくりの方が大きめの方がきれいじゃよ。少し右上がりにして、線は平行に書くとよいぞ」

「うん……!」

 ジュンは真剣に「幹」を書いて、おれたちはそれを見守った。


 ジュンが「幹」を書き終わると、ジュンの「幹」の字がぴかーんと光った。


「ふむふむ、きれいにこころを込めて書いた証拠の光じゃの」

 ほ、ほ、ほ、と大夫はうれしそうに笑った。

 おれたちもそれぞれ「幹」の字を書いた。



 次は「義」と「議」だ。

「あたし、この字、嫌い」とユウコちゃんが言った。

「おれも」

「なんか、バランスが悪くなっちゃうんだよね」

「わかる!」

「でさ、実は五年生の『義』より、四年生の漢字の『議』の方が書きにくいの!」

「あ、それって、さっきの『護』と似た感じで書きにくいのかも」


 おれとユウコちゃんが意気投合していると、大夫が「ほほほ」と笑って、

「そうじゃの。ごんべんに合わせて書くといいのじゃよ。上の部分を大きく書き過ぎないことがポイントじゃ。横線と横線との間を開け過ぎないようにするとよいぞよ」

 と言いながら、「義」と「議」の文字を書いた。

 上の部分を大きく書き過ぎない、とこころの中でつぶやいて、ゆっくり書く。


「じょうずに書けた!」

「あたしも、今までより、うまく書けた!」


 おれとユウコちゃんは顔を見合わせて笑った。

 ジュンとレイアちゃんもきれいに書いていた。

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