第29話
「では続けるぞよ」
大夫は空中に次々に文字を書いた。
「『統』。ひとつづきにつながっているもの、すじ。一つにまとめる、おさめる」
「『導』。案内する、教える、みちびく。電気・熱を伝える」
「『賛』。ほめたたえる。たすける、同意する」
「『賛』にほめたたえるっていう意味があるんだね」とおれが言うと、ジュンが
「賛美歌って知ってる?」と言った。
「教会で歌ううたのこと?」
「そう。神様をたたえる歌だよ」
「なるほど!」
そして筆がぴかーん、ぴかーんとうれしそうに光った。
大夫もうれしそうだ。
「わたし、『賛』もいいなあって思っていたの」とレイアちゃん。
「『賛』にするの?」とおれ。
「ううん、もうちょっと考える。タチバナくんは?」
「おれはまだ悩み中」
ふふふとレイアちゃんと笑い合った。
「次の漢字はこれじゃよ!」
大夫の書いた文字が、空中で光る。
「『徳』。人としての立派な心や行い、めぐみ。利益になること」
「『武』。勇ましい、つよい。いくさ、そのための兵器や兵士」
「『夢』。眠っているときに見る、ゆめ。はかないもの、あこがれ」
「わたし、『夢』にしようかなあ。将来の夢みたいに、未来に向かうあこがれの意味で」
とレイアちゃんが言い、おれもジュンもユウコちゃんも
「いいと思う!」と言った。
なんだか、「未来に向かうあこがれ」っていう感じが、いつも前を向いてがんばっているレイアちゃんにぴったりだと思った。
「夢」の字が、うれしそうに光った。
「おれは何にしようかなあ。「徳」もいいなと思ったんだけど。……ねえ、大夫、一番緒に教えてくれた、『知識常識は口に出して言う。糸糸組織を織る。耳の職業』の『識』って、どんな意味なの? あの字、ダジャレでもやったし呪文でもやったから、ちょっと印象的なんだ」
「なるほどの。和樹に最初に教えた字じゃの。嬉しいのう。『識』はの、ものごとを見分ける、しる、その力という意味じゃよ。『知識』がこれじゃの。しるし、という意味もあるの。『標識』なんかじゃよ。ついでに『織』はの、布をおるという意味の他に、組み立てる、組み合わせるという意味もあっての、じゃから『組織』という言葉になるんじゃ」
「へえ……おれ、大夫にいろんなことを教えてもらって、いろいろなことを知れた。それが、すごく楽しかった!」
「ほほう、なんと喜ばしいことじゃ」
「それでね、おれ、思ったんだ。もっと知りたい! って。もっともっと! だからね、『識』にするよ‼」
大夫が空中に書いた『識』が、ぴかぴかってなって、おれはすごくうれしくなった。
「すごくいいと思うよ!」とジュンもユウコちゃんも、それからレイアちゃんも言ってくれて、おれは、心の中にあたたかいものがじわんと広がるのを感じた。
みんな、背中の一文字が決まった。
ジュンは「だいじなところ、中心」という気持ちを込めて「幹」。新幹線も好きだしね。ユウコちゃんは「けがれなくきよらかで、いさぎよい」という意味の「潔」。ユウコちゃんによく似合うなって思う。レイアちゃんは「未来に向かうあこがれ」という思いから、「夢」。ぴったりだよね。そしておれは「ものごとをもっと知りたい!」という気持ちから、「識」に決めた。みんなに「いいと思う」って言ってもらえて、なんだか、最近がんばったことがむくわれた気持ちになった!
空中に浮かんだ、四つの漢字もぴかぴかと光って、喜んでいるように見えた。
大夫ももちろん、ほんわか光ってくるんって回って、「うほほ」と楽しそうに、喜んでいた。
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