第28話

「『幹』。木の太いところ、みき。それから、だいじなところ、中心っていう意味があるんじゃ。幹線道路って言うじゃろ? 太い道のことを」


「ボク、実は『幹』っていいなって思ってた! 新幹線が好きだから」

 とジュンが言った。

「でも、『新幹線』だから『幹』ってなんかちょっと言えなくて。でも『だいじなところ、中心』っていう意味もあるんなら、『幹』に決めるよ!」

 ジュンがそう言うと、空中の「幹」がぴかぴかと瞬いた。

「『幹』も喜んでおるの」

 大夫は、ほ、ほ、ほ、と笑った。



「『義』。これはの、いろんな意味があっての、『正義』などと使うときは、正しいおこない、という意味。『意義』のときはわけとかいみ、という意味。『義眼』などと使うときはほんもののかわりにするもの、という意味になるんじゃ。背中に書く場合は、正しいおこないという意味を込めてじゃろう」


「あのね、大夫ちゃん。『義』ってね、四年生のときに習った『議』と似ていて、使い分けが難しいの」

 とレイアちゃんが言い、おれたちもうなずいた。

「『議』の方はの、ごんべんがついているであろ? だからの、意見を出して話し合う、という意味になるんじゃ。口に出して言うかどうか、が、使い分けのポイントになろうぞ」

「へえ!」

 筆が何度もぴかーんと光った。



「『潔』。けがれなく、きよらか。あっさりしている、いさぎよい」


「あたし、『いさぎよい』っていうことば、好きなの。『けがれなく、きよらか』っていう意味もいいわね! なんか、きれいでしゃきっとしていて。あたし、『潔』にしようかな。……うん、『潔』にする!」

 とユウコちゃんが目を輝かせて言った。

 空中の「潔」がぴかぴかと瞬く。


「大夫、ボクね、この漢字、送り仮名に迷うんだ。『潔い』。なんで『い』なの?」

 とジュンがいい、おれは

「え? 『よい』が送り仮名じゃないの?」

 と言った。


「ほほう。『い』で終わる単語はの、『なる』をつけて考えるんじゃ。『良い』の場合は、『よなる』で『い』が送り仮名。『美しい』は『うつくなる』で『しい』が送り仮名。つまり、『なる』は『い』が送り仮名。『なる』は『しい』が送り仮名なんじゃよ」


「なるほど! 『潔い』は、『いさぎよなる』だから、『なる』で『い』が送り仮名になるんだね!」とおれ。

「『苦しい』は、『くるなる』で『なる』だから、『しい』が送り仮名ね!」とユウコちゃん。


「そうじゃ、そうじゃ」

 大夫は、ほほほとひげをなでた。


「わたし、『快い』もいつも迷ってた!」とレイアちゃん。

 そしてみんな、深くうなずき、いっしょに言った。

「『こころよなる』、『なる』だから『い』なんだ!」


「そうじゃそうじゃ。ちなみに、『快』は五年生の漢字じゃの。意味は気持ちがよい。病気が治る。はやい。という意味じゃの」


「あ、快速電車の『快速』は『はやい』って意味なんだね!」

 ジュンは鉄道好きなんだ。


「そうじゃよ」

 と大夫は笑い、

「ところでの。さっきの、『なる』は『い』、『なる』は『しい』という法則はの、ときどき例外があるんじゃよ。例えばの、『懐かしい』の送り仮名は『かしい』じゃ。そういう例外をその都度覚えるとよいぞ。この字は中学校で習う漢字じゃ」

 とつけ加えた。

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