3.漢字を美しさで攻略せよ‼

(1)運動会のダンスと大夫のこと

第25話

「ジュン……運動会だよ……」

「うん……」

 おれとジュンは、ジュンの家でカードゲームをやりながら、暗くなっていた。

 おれたちはカードゲーム好きであること、そして運動が苦手であることから意気投合していたので、運動会って、うれしくない行事だった。


「徒競走とかはさ、なんとかなるけど、問題はダンスだよ。今年のダンスは難しいって言うよ」

「絶望しかないよ、タチバナ」

 二人して、ため息をつく。

 おれたちはことのほか、ダンスが苦手だった。

「おれ、手をがんばると、足が分からなくなるんだよ」

「ボクもだよ」


「水泳みたいに、練習すればいいぞよ!」

 暗い雰囲気に、ぽんっと大夫たいふが光りながら現れて、おれたちはちょっと気持ちが明るくなった。


「大夫! いつの間に⁉」

「ほほう。和樹かずきのかばんの中に、こっそりと忍び込んでおったのじゃよ」

「大夫、会えて、うれしいよ」

 ジュンは大夫に人差し指を出して、大夫はその指を握った。握手らしい。


「ところで、どんな踊りをするのじゃ?」

「えーと」

「あ! ボクんち、お兄ちゃんのときのDVDあるよ! 見る? お母さんに聞いてみるね」

 ジュンはしばらくすると、DVDを手に、戻って来た。

「これ! 何年か経っているけれど、振り付けは毎年同じのはずだから」

「見てみよう!」

「うほほ」



 かっこいい踊りだった。


 黒くてすそが長いはっぴを着た子どもたちが、音楽に合わせて踊っていた。

 最初は、広がって踊っていて、隊形を変えて集合したり、あるいはぐるぐる走ったりもしていた。はっぴがひるがえるようすや全員がそろって両手を上げたりするようすが、とてもよかった。


 印象的なのは、背中の一文字で、みんなそれぞれ違う漢字一字を背中に書いていた。


「かっこいいね、マサトさん」

「すごいね。……ボク、できるかなあ、こんなの」

「うん。……みんなそろっていて、びしっとしていたね」

「ボク……できないかも……」


 ジュンと二人で暗くなっていたら、「最初はみんなできないけど、練習してできるようになるんだよ」という声がした。

「お兄ちゃん!」

将人まさと、家でも練習していたのよ。じゅん、覚えていない?」

 マサトさんとジュン(とマサトさん)のお母さんがいた。ジュンのお母さんはおやつを持って来ていて、「よかったら食べてね」と言った。


「そう言えば、お兄ちゃん、練習していたような気がする」

「それで、あなたもいっしょに踊っていたのよ? 覚えていない?」

「それは覚えていないや」


「マサトさん、背中の漢字はどうして『志』にしたの? みんな、好きな漢字を書くんだよね?」

 おれは気になっていたことを質問した。

「うん。志を高く持とうって思ったんだよ。どんな漢字でもよかったけど、せっかくだから五年生に習う漢字から選んだんだ」

「そっかあ」


「とにかく、練習あるのみだよ、ジュン、タチバナくん!」

「うん!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る