第24話

 結局みんなたこ焼きを買い、それから唐揚げも買った。

 ベンチに座って食べる。


 あ、そうだ。

 大夫たいふ、食べるかな?

 ショルダーバックを見ると、大夫はちょこんと顔を出していた。

「ほほう、いい雰囲気じゃのう」

「大夫ちゃん!」

 とレイアちゃんがうれしそうに言った。いつの間に「ちゃん」がついたのだろう?


 するとユウコちゃんが

「大夫ちゃん?」

 とけげんな顔をして、レイアちゃんの視線の先を見た。そして、

「きゃー! かわいい‼」

 とうれしそうな声をあげる。

 大夫って、女子にはかわいいペットみたいに見えるのだろうか。


 大夫はバックからぴょこんと飛び出し、お辞儀をして

橘大夫たちばなのたいふと申す」

 と言った。


 ユウコちゃんは、かわいいかわいいと大夫を手のひらに乗せ、「たこ焼き食べるかな?」とたこ焼きをあげたり、「肩に乗ってくれる?」と肩に乗せたりした。

「たこ焼き! うまいのう」

 大夫はうれしそうにたこ焼きを食べたり、ユウコちゃんの肩や頭に乗ったりした。レイアちゃんもユウコちゃんも「大夫ちゃん!」と言って、にこにこしていた。


「大夫、人気だね」とジュン。

「ほんとだ。でも、楽しそうでよかった」


 大夫が、お父さんやお母さんに見えなかったことを思い出していた。

 誰にも見てもらえないと、さみしいよね。

 おれは、大夫との出会いや、いっしょに勉強を頑張ったことなんかをユウコちゃんにも話した。

「へえ! いいなあ! 今度はあたしも混ぜてね!」

 ユウコちゃんは目をきらきらさせて言った。

 大夫はすごくうれしそうに「いいぞよいいぞよ」と言って、くるんって回った。


 大夫はほわほわ光っていて、おれたちの前にふわふわと浮いていた。

 辺りには人がたくさんいるのに、誰も大夫のことは見えていないみたいだった。


 でも、おれたちには大夫が見える!


「じゃあ、大夫もいっしょにまわろう! 次はどこに行く?」とおれが言ったら、

「射的!」とジュンが言い、

「じゃあ、いこう!」とレイアちゃんもユウコちゃんもにっこり笑った。


 大夫は誰かの頭の上や肩の上にいた。

 そして、みんなといっしょに楽しんだ。

「ほほう、祭りはよいのう」

「でしょ?」

 ときどき、振り返って大夫を見るひともいたけれど、「ぬいぐるみ?」という声が聞えたので、おもちゃか何かだと思われているみたいだ。夏祭りだしね!



 夕暮れの中にたくさんの人がいて、暑い空気の中でみんな浮き立つような気持ちで、出店を見ていた。時々知った顔に出会って手を振ったりしながら、射的をしたりおもちゃを見たりした。ソフトクリームも食べた。群青色ぐんじょういろの空の下、駅前だけがぽわっと明るくて、そこだけ閉じ込められたおとぎの国みたいだった。



 ジュンが笑う。ユウコちゃんも笑う。レイアちゃんも、もちろん笑って。

 大夫もうれしそうに笑う。

 おれはなんだかとても幸せな気持ちになった。


 五年生の夏祭り。

 きっとずっと忘れない。

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