(3)漢字を呪文で攻略せよ‼

第18話

 おれのうちにレイアちゃんが来たのは久しぶりだ。ものすごく。

 おれはどきどきしながら、レイアちゃんを部屋に案内した。ジュンはもう来ている。


「ほほーい」

 大夫たいふは部屋の真ん中に置いた小さな机の上で、筆を持って踊っていた。

「やーん、かわいー」

 レイアちゃんは大夫を見て、手のひらに大夫を乗せた。

 レイアちゃんはすっかり大夫のファンだ。

「じゃあ、勉強するかの?」

 大夫は、ほ、ほ、ほ、と笑った。


「あのさ、大夫。この間の『知識常識は口に出してう。組織を織る。の職業』ってあったでしょう」

 とジュンが言った。 

「うむ」

「あのね、そもそも、知識の『識』っていう字が覚えづらい気がするんだ。何かいい覚え方、ない?」

「分かる!」

 とおれは力を込めていった。

「おれ、小テスト終わったら、書けなくちゃったんだ……」


「ほほう、困るのう」

「ねえ、何かいい覚え方、ないかな?」

「ふむ。では、呪文で覚えるとしようかの?」

「呪文?」

 おれとジュンとレイアちゃんは同時に言った。

 大夫は白い紙に「識」と大きく書いた。



ごんべんを書く。立つの下を長く伸ばし、日を書く。そってはねて、ノを書いて、点」



 大夫の筆がぴかんって光った。

 おれたちは口々に、大夫の書いた字を見ながら「ごんべんを書く。立つの下を長く伸ばし、日を書く。そってはねて、ノを書いて、点」と言った。


「みな、好きな筆記具を持って来たぞな? それで、一回だけ書いて、もう一度呪文を唱えといいぞよ。『識』は、そってはねる、のがポイントかの?」

 おれはフリクションの青色、ジュンはシャープペンシル、レイアちゃんは青いペンを出した。


「ジュン、シャーペンなんだ」

「うん、実は家ではいつもこれ。このシャーペンね、芯が0.9なんだよ。タチバナの多色フリクションみたいに、持つ部分がちょっと太くて、それも書きやすいポイントなんだ」

「へえ!」

 おれはジュンのシャーペンでちょっと書かせてもらった。

「ほんとだ、鉛筆より書きやすいし、0.5のシャーペンみたいに芯が折れない!」

「でしょ!」

 ジュンは嬉しそうに笑った。


「レイアちゃんは青いペン?」

「うん、お姉ちゃんに借りてきたの! お姉ちゃん、いつもこれで勉強していたから」


「さて、では書いてみるがよいぞ」

 大夫の言葉で、おれたちはそれぞれノートに「識」と書いた。

ごんべんを書く。立つの下を長く伸ばし、日を書く。そってはねて、ノを書いて、点」

 大夫の筆がぴかーんと光った!


「呪文を唱えると覚えやすい!」

 とおれが言うと、

「だってタチバナ、百人一首を呪文みたいに覚えたんだろ? 意味も考えずに」

 と、ジュンが言った。

「あ、うん。そう言えば」

「ほほう。和樹は耳から覚えるタイプなのじゃな」

 大夫に言われて、そうかも、と思った。書いても全然覚えられない。呪文の方が覚えやすい。


 大夫は、にほほと笑うと、「では次々呪文を授けようかの」と言って、筆を持った。筆はぴかんと光った。

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