第19話

 大夫は「解」と書く。



つのに刀に牛。角の下はつき出ない、牛はつき出る」



 おれたちは「解」と書いて、呪文を唱える。

 大夫の筆がぴかーんと光った。

「この漢字はの、つき出るつき出ないがだいじなんじゃよ。では次、行くぞよ」

 大夫は「許」と書いて、言った。



ごんべんに、午前午後の、。つき出ない」



はつき出ないんだね」とおれ。

うしはつき出るのよね」とレイアちゃん。

「午前午後の『午』はうまなんだよ。うしはつき出る、うまはつき出ない」とジュン。


 おれたちは「許」と書いて、

ごんべんに、午前午後の、。つき出ない。うしはつき出る、うまはつき出ない」

 と言った。

 大夫の筆がぴかーん、ぴかーんと、いつもより大きく光った。


じゅん殿が、自分で呪文を考えたから筆も喜んでおるの」

 大夫はうれしそうに言った。

 ジュンはえへへと照れたように笑った。



「では、五連続、呪文を唱えるぞよ! 書いた漢字を見ながら、呪文を聞いてくれたらうれしいの」

 大夫は白い紙に次々に漢字を書き、そして呪文を唱えた。



「『容』。うかんむりに谷」

「『制』。ノを書いて二を書く。巾のたて棒を二の上に飛び出して書く。横にりっとう」

「『総』。いとへんにハムに心」

「『液』。さんずいの横に夜を並べる」

「『築』。たけかんむりにエに凡。下に大きな木」


 大夫の筆はぴかん、ぴかんと、たてつづけに光った。



「『制』はの、上に飛び出すところがポイントなんじゃよ。『築』はの、下に大きな木を書くのがだいじなんじゃ」

 大夫はそんなふうに、説明も加えてくれた。


「おれ、上に飛び出るか飛び出ないか、よく間違える」

 とおれが言うと、レイアちゃんは

「わたしは『築』の字のバランスを間違えていたわ」

 と言った。

 そして、

「ボク、『液』ね、なべぶたの下にさんずい書いていたよ!」

 とジュンが言い、大夫が

「うむうむ、それも間違えやすいポイントじゃのう。じゃから、『さんずいの横に夜を並べる』のじゃよ」

 と言った。



 おれたちは真剣に、間違えないように注意をしながら「容」「制」「総」「液」「築」と書き、呪文を唱えた。

 大夫の筆がぴかーん、ぴかーんと何度も光る。



「では次は似た漢字をいっしょに覚えるぞよ」

「うん!」おれたちは大きくうなずいて、大夫をじっと見た。



「『営』は、ツにワに口二つをノでつなぐ。『堂』は光の上を書いて、ワ、口プラス土。『官』はうかんむりに、たて棒にコとコ」



「似てるよね、いつも分からなくなるやつ」とレイアちゃん。

「上の部分も間違えるし、中もちょっと迷う」とジュン。

「おれはそもそもよく分かっていなかった。……でも、覚えた!」とおれ。

「うん! まずは上がツなのか、光の上なのか、ね」

 とレイアちゃんが言い、

「それがウか」

 とジュンが言った。

 そしておれは「中は、口が二つか、口と上か、コが二つか‼」と言って、みんなで「営」「堂」「官」と、ゆっくりと書いた。そして呪文を唱える。


「似た漢字はいっしょに覚えるといいのじゃよ」

 筆がぴかーんと光った。

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