第17話

 帰るタイミングを合わせて、レイアちゃんと少し話すことが出来た。レイアちゃんはお母さんといっしょに来ていた。


「こんにちは」

「あら、和樹かずきくん! 大きくなったわねえ。美由紀みゆきさん……お母さんは元気?」

「はい」

「またお茶でもしたいわって伝えてくれる?」

「はい。……あ、で、こっちが、友達のホシノジュンくんと、そのお兄さんのマサトさん。……いま、泳ぐの、練習していて。マサトさんに教えてもらってるんだ」

 ジュンとマサトさんがぺこりと頭を下げ、レイアちゃんのお母さんは笑顔で返す。


「和樹くんも、やっと水泳やる気になったのねえ」

「え?」

怜愛れいあがスイミング習うってなったとき、ほんとうは和樹くんもいっしょに習うはずだったのよ。でも、和樹くんが嫌がったから、美由紀さん、習わせるのを止めたの。でも、泳げないと困るって、ずっと心配していたのよ」


 知らなかった……。

 スイミング習うのを嫌がったのも覚えてなかったし、お母さんが心配しているのも知らなかった。


「がんばってね!」

 と、レイアちゃんのお母さんは言った。

 レイアちゃんはその隣でにっこりと笑って、

「また明日学校でね!」

 と言った。

「うん!」


「あ、カ……タチバナくん、漢字の五十問テストの勉強してる?」

「まだなんだ」

「あの、また、いっしょに勉強しない?」

 レイアちゃんが訴える目をしている。大夫たいふのことだ!

「ボクもいっしょい勉強したいな」

 ジュンも言う。

「うん、じゃあ、いっしょに勉強しよう!」


「教えてあげようか?」

 マサトさんがそう言ったけど、おれたちは同時に言った。

「ううん、だいじょうぶ!」

 だって大夫がいるからね!


 おしゃべりしたあと、レイアちゃんはレイアちゃんのお母さんといっしょに車で帰って行った。おれたちは自転車で帰る。


 さっき、レイアちゃん、「カズキくん」って言いかけて、「タチバナくん」って言い直した。

 思い出した。

 うんと小さいころは「カズキくん」って呼ばれていたことを。

 でも、今おれは、学校では「タチバナ」とか「タチバナくん」って呼ばれているから、「タチバナくん」って呼んでいるんだ。でも、レイアちゃんの中にちゃんと「カズキくん」が残っているんだなって、分かってうれしくなった。

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