(2)水泳特訓だ!

第16話

 ジュンのお兄ちゃんの、マサトさんの部活がない日、僕たちは市営プールで練習をすることになった。学校から帰ったら、おれは自転車でジュンの家まで行き、マサトさんの帰りを待って、三人で自転車をこいでいっしょにプールまで行く。


 なんだか、そうやって三人で行くこと自体が、おれはとても楽しかった。

 自転車をこいで、子どもだけでプールに行く!

 なんか、ちょっと大人になった気分。


 水着になって、プールサイドへ向かう。

「はい、準備体操するぞー」

 マサトさんのマネをして準備体操をして、水に入る。

「よし! じゃあ、今日はビート板を使って、二十五メートル泳ごう。バタ足、がんばれ!」


 まずジュンから。

 ジュンは顔を水につけて、手をまっすぐに伸ばしてビート板をつかみ、バタ足で進んで行った。息つぎをするために顔を上げるときちょっと沈みそうになるけれど、けっこういい感じだ。

「次、タチバナくん」

「はいっ」

 おれは水に顔をつけて、壁を思い切りけって勢いをつけて、バタ足をした。できるだけ息つぎしないで泳ぎたいと思って、いつもより少し長く泳いでから顔を上げる。


 ジュンが前に見える。

 がんばるぞ!


 顔をつけて泳ぐ。息つぎ。顔をつけてバタ足。

 夢中でバタ足をしていると、気づいたら壁に突き当たっていた。

 足を床につけて、立つ。


「じょうずになったぞ!」

 マサトさんが笑顔でそう言ったのでうれしくなる。ジュンと顔を見合わせ、「よっしゃ!」と言い合った。


「じゃあ、次はビート板なしで、泳げるところまで、バタ足で泳ごう」

「はいっ」


 こういうの、親にやれって言われたら、なんかやりたくなくなるんだけど、マサトさんみたいなお兄ちゃんに言われるとがんばれる。不思議だ。

 おかげで、おれもジュンも上達が早い……気がする。

 マサトさんがせっかちじゃないせいもあるかも。

 ジュンやおれのことをよく見ていて、それに合わせて進めてくれる。

 すごいなあ。

 おれ、高校生になったとき、こんなふうになれるのかな。


 ビート板なしのバタ足の次は、クロールの手の練習だ。

 立ったままクロールの手の練習をしたら、すぐに「じゃあ、クロールやってみよう。まずは息つぎなしで」とマサトさんは言った。

 ビート板を使うのかと思ったけれど、「バタ足に手をつけるだけだから、まずは息つぎをしないでバタ足にクロールの手の動きを加えてみよう」ということで、ビート板は使わずに泳いでみることになった。


「きんちょーする! できるかな?」

「がんばろう、タチバナ!」

 マサトさんに支えてもらいながら、ジュンはクロールの手をつけて泳いで行った。


 すごいすごい!

 ちゃんと泳いでる!


 ジュンは、二十五メートルの途中まで泳いで、立った。そして、ジュンは振り向いて、おれに向かってガッツポーズをした。

 マサトさんが戻ってきて「じゃあ、次はタチバナくんね」と言った。

 よし!

 おれは手を伸ばし、深く息を吸い込み顔を水につけた。


 壁をけって、進む。

 水をかく。

 懸命にかく。

 バタ足も一生懸命やる。

 息が続くまで、とにかくがんばる。

 苦しくなって、立つ。


 横を見ると、ジュンがいた。同じくらいまで進むことが出来たんだ。

 二十五メートルプールの半分よりも手前。

 でも、一人で泳げた!

 おれは嬉しくなって、ジュンとハイタッチをした。マサトさんも「よくがんばったね」って言ってくれた。



「お、あの子! あの子くらい、泳げるようになるといいね」

 マサトさんの視線の先を見ると、水色の水着を着た女の子がきれいなフォームでクロールで泳いでいた。

「わー、きれいだね」

「うん、それに速い!」

 おれたちはその子の泳ぎにみとれた。

 水色の水着の女の子が泳ぎ切って、立ち上がった。


「あ!」

 おれとジュンは同時に言った。

「レイアちゃん!」

 レイアちゃんもおれたちに気がついて、手を振ってくれた。おれとジュンも手を振り返す。

 

 あの、きれいな泳ぎをしていた子がレイアちゃんだなんて。

 ……おれ、もっとがんばって泳げるようにならなきゃ!

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