第15話
自転車をジュンの家の庭に停めると、チャイムを鳴らした。
「はーい」
ジュンのお母さんの声だ。
「あの、
「あら! 橘くん、いらっしゃい。ちょっと待っててね」
しばらくすると、ジュンが玄関のドアを開けて「よ!」と言った。おれは「おう!」と答えて、家に入る。
「何して遊ぶ? カードゲームする?」
ジュンは、リビングに行くと、そう言ってカードゲームを出した。
「あのさ、今日は相談があって来たんだ」
「相談?」
「うん。プールのこと」
「ああ……」
ジュンも沈んだ声になった。ゆううつだよな。
「いっしょにさ、練習しない?」
「練習?」
「うん。おれもジュンもさ、スイミングスクール行っていなくて泳げないだろ?」
「うん」
「でもさ、自分で練習して泳げるようになった人だっているよ。だから、いっしょに練習しようよ」
「練習するのはいいけどさ、ボクたち二人とも泳げないじゃない? 泳げない同士で練習しても、泳げるようにはならないんじゃない?」
「あっ。……それはそうかも」
少し芽生えた希望がしゅんとしぼんでしまった。
そのとき、おやつを持って来てくれた、ジュンのお母さんが言った。
「それなら、お兄ちゃんに教えてもらったらいいじゃない?」
「ジュンのお兄ちゃん?」
「そう。
ジュンと、ジュンのお兄ちゃんとは年が少し離れていて、ジュンの家に遊びに行ってもいっしょに遊ぶことはほとんどなかった。顔と名前くらいしか、知らなかった。
「お兄ちゃん、教えてくれるかなあ」
「教えてくれるんじゃない? ジュンのこと、大好きだし」
ジュンのお母さんは小さなテーブルに、ジュースとコップとお菓子の乗ったお皿を置いた。「食べてね」と言って。
そのとき、「俺、教えるよ」という声がした。
振り向くと、ジュンのお兄ちゃんが立っていた。
「将人、今日は早いのね。おかえりなさい」
「うん、今日は短縮授業だったんだ。それで、二人とも、泳げるようになりたいんだよな?」
「うん!」「なりたい!」とおれとジュンは元気よく応えた。
ジュンのお兄ちゃんは「まかせろ!」とさわやかな笑顔で言った。
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