2.漢字を呪文で攻略せよ‼

(1)プールも五十問テストもゆううつな件

第14話

 夏だ。


「はあ」

「何ため息ついておるのじゃ?」

「あ、大夫たいふ。もうすぐプールが始まるなって思って」

「プール。気持ちよかろう。暑いからの」

「大夫は泳げるの?」

「いや、泳げぬぞ!」

「そっかあ。大夫も泳げないんだね」

「泳げぬとも、困ることはないぞよ」

「おれは困るんだよう」

「なぜじゃ?」


「もうすぐプール開きなんだ。つまり、学校で水泳の授業があるんだよ」

「ほほう。では、そこで泳げるようになればいいであろ?」

「でもさ、みんなだいたい泳げるんだよね」

「ふむふむ」

「スイミングスクールに通ったりしてさ」

「ふむふむ」

「はあ。泳げないとかっこ悪いよね。それにおれ、ちょっと太ってるし」

「では、始まる前に練習してみるのはどうじゃ? 体を動かすと、ダイエットにもなろうぞ」


「……ジュンを誘ってみる。ジュンも確か泳げないから」

 おれたちは運動がちょっと苦手で、それでがきっかけで仲良くなったんだ。

「ほうほう、いいのお」

「あと、それからね、大夫にもお願いがあるんだ」

「なんじゃ?」


「今度ね、漢字の五十問テストがあるんだ」

「ふむふむ」

「でね、書くのが難しい漢字があって、どうやったら覚えられるか、この間みたいにいっしょに考えて欲しいんだ」

「もちろん、いいぞよ!」

 大夫はぺかって光りながらいった。

「ありがと!」

「水泳も漢字もがんばらないとな、ふぉっふぉっふぉっ」


「変な笑い方、しないでよ、大夫」

 おれはどぎまぎしながら言った。

「いやいや。くふふ」

「くふふって笑うなよっ」

「まあ、怜愛れいあ殿に恥ずかしくないようにしないと、の?」

「……たいふっ、もうやめて!」


 おれは大夫にクッションを投げつけた。

 大夫は器用にひょいっと避けると、また「くふふふ」と笑った。


「なんにせよ、やる気が出ることはいいことじゃ」

「おれ、ジュンんちに行ってくる!」

 おれは顔を真っ赤にしながら、大夫を置き去りにしてジュンの家へ向かった。ジュンは確か今日は習い事はなくて、家にいるはずだった。

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