第13話

 それからおれは、正直に、宿題は大夫たいふにたすけてもらったことを言った。なんだか二人には嘘をつきたくなかったんだ。


「でもさ、それまでにちゃんと勉強したのよね?」とレイアちゃん。

「うん」

「漢字嫌いのタチバナが、大夫といっしょに書いてがんばったんだよね?」とジュン。

「うん」

「じゃあ、別にいいんじゃない?」「ボクもいいんじゃないかなって思うよ」

「そ、そう?」


「うん、あのね、タチバナくん。タチバナくんは、書くことが他のひとよりちょっと、じゃなくて、かなり苦手なんだよね?」

「うん」

「あのね、目が悪いひとは眼鏡をかけるでしょう? よく見えるように。眼鏡といっしょだよ、きっと。書くことがうまく出来ないことを、たすけてくれるものがあってもいいじゃない!」

 レイアちゃんはにっこりと笑った。

「ボクもそう思うよ。ボク、眼鏡かけないと見えないんだよ」

 とジュンも笑う。


 おれは、二人を見ていたら、なんだか涙がこぼれてきて、漢字を書くのに、ものすごくものすごく、時間がかかること、すごく一生懸命に書いても、間違った漢字を書いていたり、先生に「書き直し」と言われたりして、つらいことなどを話した。


「そっかあ、それはつらかったね」とレイアちゃんは言い、ジュンは

「ごめん、ボク、そんなに大変だったなんて、知らなかったんだよ」と言ってくれた。

「おれがバカだから」

「それは違うぞよ!」

 今まで黙って見守っていた大夫が言った。


「書くことが苦手であることと、馬鹿であることは違うことじゃ。間違えてはならぬ。和樹は決して馬鹿ではないぞ」


「そうだよ、算数できるし!」とジュン。

「そうよ」とレイアちゃん。


「わしと出会ったとき、空中に『たちばな』という漢字を書いていたであろ?」

「うん、だって自分の名字だから」

「練習して、書けるようになったんであろ?」

「うん」

「『橘』は難しい漢字であるぞ。それが小学生で書けるのはすばらしいことだと思うぞ?」

 大夫がそう言うと、ジュンもレイアちゃんも、うんうんとうなずいた。


 大夫は続けて言った。

「そしてな、和樹は、記憶力が悪いわけではないぞよ?」

「そうかなあ」

「そうじゃ。実際、ダジャレで漢字を覚えたじゃろう?」

「うん……」


 と、ここでジュンとレイアちゃんが「え? ダジャレで漢字?」「ダジャレおもしろそう!」と目をきらきらさせて言った。

「あのね!」

 おれは昨日大夫と勉強したダジャレを教えてあげた。


 大夫はにこにこしながら話を聞いていて、ダジャレを言うたびに空中に文字を書いた。そして、ジュンやレイアちゃんが「へえ!」とか「なるほど!」とか言うたびに、筆がぴかーんて光った。



 そんなわけで、午後の授業でやった漢字のテストは三人とも満点だった!

 先生がおれの顔を見て、「橘くん、頑張ったのね!」と言った。

 いつも0点か0点に近い点数だったからね。

 いい点数とると嬉しいね!

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