第12話

 おれたちは次の休み時間に、階段下に集まった。


「ねえ、大夫たいふ、出て来て」

 おれがそう言うと、大夫はおれの手のひらに、筆とともにぴょんと現れた。


「ほほーい」

「わあ! かわいい! 大夫っていうの?」

 レイアちゃんはおれから大夫をすくうようにして取り、手のひらの上に乗せて言った。

橘大夫たちばなのたいふ。おれのご先祖様で、文字の神様なんだ」


「そうなんだ! ボクはタチバナの親友の、星野ほしのじゅんって言います、よろしくお願いします」

 ジュンがとても礼儀正しく言った。


「わたしは、片瀬かたせ怜愛れいあって言います。タチバナくんとは同じマンションに住んでいます」

 レイアちゃんもとてもていねいに言った。


「二人ともいい子じゃのう。さすが、和樹の友だちじゃ。わしは、前世は橘逸勢たちばなのはやなりという、書がとても好きな人間だったんじゃ。死んでから、文字の神様になったんじゃよ。橘大夫たちばなのたいふであるからして、大夫たいふ、と呼んでくれたらうれしいの」


「大夫はほんとうにタチバナの先祖なんですか?」

「そうじゃよ」

「じゃあ、タチバナって、すごくいい血筋っ⁉」

「いやな、もう、ほんとうに遠いとおい遠ぉーいつながりだからの。子孫という意識はないと思うぞよ」

「そうなんだ、おれも初めて知って、驚いたんだよ!」


 そのときチャイムが鳴り、「じゃあ、今度は給食を早く食べ終わって、お昼休みに集まろう」ということになった。



 お昼休み。

 おれたちは体育館わきの植え込みの近くに集まった。

 ここが一番誰も来ないような場所だから。


「大夫、出て来て」

「ほほーいっ」

 大夫は嬉しそうに、ぽんっとおれたちの前に出た。

「きゃー!」とレイアちゃんがうれしそうな声を上げ、「おお! 夢じゃなかったんだ!」とジュンが言った。


 おれは、大夫といっしょにこれまでのいきさつを話した。

 筆を拾ったこと、漢字が書けない悩みを打ち明けたこと、大夫といっしょに書きやすい筆記具を探したこと。いっしょに勉強をしたこと。


「それで、フリクションがよかったの?」

 と、ジュンが興味深そうに言った。

「うん、そうなんだ! 力を加減しなくてもすっとインクが出るし、多色ペンの少し太い軸が持ちやすくて。あと、青色で書くと、なんか覚えられる気がしたよ」

「お姉ちゃんも青色で書いて勉強していた!」

 レイアちゃんはうれしそうにそう言った。

「それぞれにな、自分にあったもので書くといいのじゃよ」

 大夫は深くうなずきながら言った。

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