(4)「え? 見えてるの?」と、漢字テスト乗り切った!

第10話

 ところで、家では、大夫たいふの姿も大夫の筆も、おれにしか見えなかった。

 大夫とおしゃべりしていたところにお母さんが帰って来たけれど、お母さんは大夫が見えなかった。お父さんもそうだ。



「ねえねえ、大夫の姿はおれ以外、見えないの? お母さんはともかく、お父さんはたちばなの血筋だよ」

「うむ。わしのことを必要としておらぬと見えないのじゃろう」


「……大夫、さみしくない?」

 おれがそういうと、大夫はちょっと目を大きく見開いて、それから笑って言った。

和樹かずきはやさしい子じゃのう」

「そ、そんなことないよ。でも、誰にも見てもらえなくて、一人だとさみしいかなって」

「ほ、ほ、ほ。いまはおぬしと話しておるぞよ?」

「うん」

「じゃから、さみしくなど、ないぞ? 和樹はいいこだしな」

「……いいこじゃないよ。……勉強できないし」


「そんなこと、ないぞよ。今日はちゃんと勉強もしたし、そもそも、いつも家でちゃんとお留守番しているんであろ?」

「うん。遊びに行くときもあるよ。習い事の日もある」

「そういうの、きちんと自分でやっておるのであろ?」

「うん」

「いいこじゃ」

 大夫はおれの頭をなでた。


 なんか、ちょっと泣きたい気持ちになった。

 親友のジュンのお母さんは、働いているけれど、でもジュンが学校から家に帰るときには家にいる。ほんとうはちょっとだけうらやましかったんだ。ジュンの家に行くと、いつもジュンのお母さんがおやつを出してくれた。


 そんなことを考えていたら、部屋のドアがノックされた。

「和樹、宿題終わったの?」

 おれの部屋のドアをがちゃりと開けて、お母さんが言った。

「うん、終わったよ! 時間割も合わせたよ」

 おれは誇らしい気持ちで言った。

「そう、よかった! 和樹がちゃんとしていてくれるから、お母さんたすかるわ。もうすぐごはんだから、そろそろ来てね」

「うん!」

 おれはふわわんとあったかいものが胸に広がるのを感じた。

 明日の漢字テスト、頑張るぞ!


「ねえ、今日の晩ごはん、何?」

「ハンバーグよ。和樹、好きでしょう?」

「好き好きー! やったあ」

 お母さんのハンバーグはほんとうにおいしい。他のお店で食べるよりも、ずっとおいしいんだ。うれしいな。

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