第8話

「『わりの貝のお金で貸す。けた貝が貨へいになる』。貨へいはお金のことじゃよ」

「それは知ってるよ!」

「では次行くぞよ。『適当に中がい』。『適』の字は、つくりを『商』とまちがえやすいんじゃよ」

「『適当に中がい』。古なんだね!」

「そうじゃよ」


「えーと、じゃあ、ふたつまとめて! 『わりの貝のお金で貸す。けた貝が貨へいになる』、『適当に中がい』」

 ぴかーんぴかーん。



「貿易の易はふたをしない。お風呂のお湯はをする」

「ふた?」

「『易』と『湯』の字は似ているのじゃが、『湯』の方は横棒が一本多いのじゃよ」

「ほんとだ!」

「気づいておらなんだか」

「うん。なんか、そういうのがよくわからないんだよ」

「うむ。だからの、『湯』にはをして冷まさない、と覚えるのじゃよ。『湯』と似た字の『場』『陽』も横棒があるぞよ」

「なるほど!」

「ダジャレで覚えるがよいぞ」


「貿易の易はふたをしない。お風呂のお湯はをする」

 筆がぴかーんと光って、嬉しくなった。



 おれは大夫が繰り出した漢字のダジャレを、もう一度口に出して言った。


「ねえ、言うだけでいいの? 書かなくて」

「書くのが難しいんであろ?」

「うん」

「ダジャレだと覚えられたのではないか?」

「うん!」

「ではいいのではないか?」

「そうなの?」

「そうじゃ。気になるなら、一回だけていねいに書くのはどうじゃ? ほれ、フリクションの青色で」

「そうだね!」


 おれはフリクションで書くのが楽しかったので、ゆっくりていねいに書いた。口に出しながら、頑張って書いた。



「知識常識は口に出してう。組織を織る。の職業」

「人が減る、が減る。で滅亡する」

「人の数える人口。人が作、人工」

の券。の巻」

きな原因。が困る」

きい能性に寄る。は奇妙」


が群れる。の右側の郡。もしくは、の群れ、の郡」

くのは往復。に住む」

「罪はず。罰はってりっする、りっしんべん」

きな恩。で思う。そして、があるのは奥」

の態度。ただの能力。熊は下に


どもが上の存在、下は

わざの技術。えだ

わりの貝のお金で貸す。けた貝が貨へいになる」

「適当に中がい」

「貿易の易はふたをしない。お風呂のお湯はをする」



 今までよりもなんだか上手に書けた気がした。

「書けた!」

「ダジャレは覚えたかの?」

「うん!」

「それはよかったの」


 大夫は、ほ、ほ、ほ、と笑った。筆も大夫の笑いに合わせて、ぴかぴか光った。

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