第5話

 おれは、家の中を探して、いろいろな「書くもの」を出して、次々に書いてみた。

 学校では禁止されているシャーペンは思ったより書きやすくてよかった。


「シャーペン、いいよ! 鉛筆だと、先がすぐに丸くなって書きにくいんだ」

「ほう、なるほどな」

「シャーペンで書こうかな」

「でも、おぬし、すぐに芯を折っているではないか」

「あ、うん、そうだね……」

 どうも力の入れ方がよくないみたいだ。

「それに、線があまりに薄い!」

「ああ、それはそうかも……。なんか、力の入れ方がわからなくて」

「ふむ」


 そのあと、ペンやボールペンなどでも書いてみた。

「ほほう、鉛筆より、よさそうじゃの」

「ペンのがいいかも。ボールペンはちょっとインクがかすれる」

「うむうむ」

「力加減を考えなくても、インクが出るのがいい」

「うむうむ。……そこにあるペンはなんじゃ?」

「あ、これ、まだ書いていなかった! フリクションだよ」

「ああ、こすると消えるペンじゃの?」

「そうそう、よく知っているね!」

「よく研究したからの」

「へえ」


 おれはフリクションで書いてみた。多色ペンなので、軸部分がちょっと太くて、持ちにくいかと思ったけど、意外にこの太さがいいように思った。

「あ、これ、書きやすい! インクもすって出るし、なんだか持ちやすい」

「おお、確かに字体もいいぞよ」

「ほんとっ?」

「ほんとうじゃ。……黒じゃなくて、他の色で書いてみたらどうかの?」

「うん」


 おれは、多色ペンの色を替え、赤や青や緑でも書いてみた。

「どうじゃ?」

「うん、青色が一番好きかな」

「そうじゃろ、そうじゃろ。青色は目にいいんじゃ」

「そうなの?」

「そうじゃ。見てみて、自分がいいなあと思える色で書く方がよいぞ。わしもな、墨の色にはこだわったものじゃ」

「墨って、黒でしょ?」

「黒にもいろんな濃さがあるのじゃよ。今は入れ物から出す墨だけど、昔はすって自分の好みの濃さの色の墨で書いたものじゃ。薄いと灰色みたいな色なんじゃよ」

「へえ」


「和樹よ。おぬし、これからは、フリクションで勉強するとよい。青色でな」

「うん!」

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