第11話 学食とLINE
授業が終わり、放課後。
僕は弥市とともに、校舎のそばに建つ学食にいた。
「とりあえず、昨日の奢りってことで」
「昨日の?」
僕が尋ね返すと、テーブルを挟んで反対側に座る弥市は「忘れた?」と口にする。
「ほら、生徒会の仕事が終わった後、いつも楓が待っていてくれたから、そのう、曽谷先輩のこととなれば、会うのは気まずいというか……。で、昨日は楓からLINEで『今日は用事があるから』とか言っていて、先に帰っていたみたいだから、てっきり、拓斗が何かしてくれたのかなって」
「ああ、そういう……」
僕は声をこぼすと、目の前にあるカツ丼を見つつ、ようやく内容を飲み込めた。
実際は須和田さんの「用事」とやらに、僕も付き合っていただけなのだけれど。
一方で弥市は自分が頼んだラーメンの麺を箸で啜る。メガネが湯気で曇ったものの、本人はどこからかハンカチを取り出し、丁寧に拭っていた。
「曽谷先輩は掃除当番でちょっと遅れるみたい」
「LINEで?」
「そうだね」
うなずく弥市は近くにあったコップのお冷を飲む。
「拓斗は?」
「僕?」
「大野さんとか」
弥市の言葉に、僕は思わず咳き込んでしまう。危うく食べていたカツ丼の中身を一気に飲み込みそうになった。
「ごめんごめん。そこまでの反応をするとは思わなかった」
「まあ、そのう、ない、かなと」
「ないっていうのは、大野さんに好きな人がいるっぽいってこと?」
「まあ、そんなところかな」
僕は言いつつ、カツ丼と一緒についてきた味噌汁の茶碗を持ち、箸で具とともに口に運ぶ。
現実としては、大野さんは目の前にいる弥市に告ろうとしていた。で、僕が止めて、今は曽谷先輩がいい人かどうか、今日会ってから確かめることになっている。それ次第では、大野さんは弥市と曽谷先輩の仲を応援しようと思っているのだ。
「それは知らなかった」
「あくまで噂だけどね」
「なら、拓斗にもまだチャンスとか」
「そういうのはあまり期待とかしない方がいいかなって」
「諦め早いね、拓斗は」
「まあ、無難に生きた方がいいかなと」
「それはそれで、これからの人生、つまらないと思うけどね」
弥市は感想っぽいことを述べつつも、さらに強いことは言わなかった。
まあ、とはいえ、僕は大野さんのことを完全に諦めたかと問われれば、微妙だ。
昨日なんて、須和田さんに問い詰められ、未練があることをバラされてるし。しかも、大野さんの前で。
僕は思い出すなり、虚しくなってきて、思わずため息をついてしまう。
「今度、カラオケとか一緒に行こっか。 そこで色々発散したら?」
「何だか気を遣わせたみたいで、ごめん」
「いやいや、拓斗が謝るようなことじゃないよ」
「いや、そのう、せっかく、彼女を紹介してくれる前だっていうのもあるから」
「まあまあ、そこは気にしなくて大丈夫だって。それに、自分の方こそ、安易に大野さんのことを聞いたりして、すまなかった」
「いや、別にいいよ」
僕は箸の動きを止めると、かぶりを振った。何だかんだで弥市はいい友人だなと、僕はおもむろに思いつつ、箸を進めようとした。
と、ズボンのポケットに入れていたスマホが震えたので、僕はおもむろに取り出す。
画面を見れば、大野さんからのLINEだった。
― 須和田さん、今、体育館裏で副会長と何か話をしてるみたい ―
「えっ?」
僕は大野さんのメッセージを読むなり、腰を上げてしまった。
「拓斗?」
「ごめん、ちょっと」
僕は気づけば、かつ丼を残したまま、急いで学食から飛び出していた。
後ろから、「おい!」という弥市の声が聞こえたが、振り返ろうとはせず。
走っている中、続けて、大野さんのLINEが届く。
― わたし、こっそり見てるんだけど、いい雰囲気じゃないみたい ―
― かといって、間に入るのはかえってマズいよね ―
「須和田さん、先走り過ぎだって」
僕は不満をこぼしつつ、急いで体育館裏へ向かうのだった。
友人が副会長と付き合い始めたけど、幼なじみは許さないようです。一方で僕を振った子はそれを注視しています。 青見銀縁 @aomi_ginbuchi
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