第10話 休み時間とサボり

「それで、曽谷先輩とはそれ以上、特に何もなかったということなのね」


 目の前にいた須和田さんは言うなり、不満げな表情でため息をついた。


 今は一時間目と二時間目の間にある休み時間。


 で、僕は須和田さんに呼び出されて、屋上に繋がるガラス扉の前にいた。


 須和田さんは近くの壁に寄りかかると、両腕を組む。


「でも、宮久保くんが死ななかったことは不幸中の幸いね」


「まあ、曽谷先輩が助けてくれなかったら、確実に死んだだろうね」


「そうなると、わたしだけで何とかするっていうのは難しいから」


「いや、でも、須和田さんだけでも何とかできるんじゃ」


「できないわね」


 須和田さんは即座に首を何回も横に振った。


「弥市と曽谷先輩を別れさせるなんて」


「でも、僕がいても、それができるかどうか」


「そこはできるって、言ってほしいのだけれど」


 須和田さんに一瞥され、僕は反応に困り、苦笑いを浮かべてしまう。


「けど、せっかく朝に出会ったのだから、何かしらの収穫は欲しかったわね」


「一応、話はしたけど」


「でも、いい人だったという感想だけでは物足りないわね」


「ですよね……」


 僕は言いつつ、朝にLINEグループで伝えたことを思い出す。なので、同じところに属している大野さんは知っているのだが、既読にしただけ。唯一返事があった須和田さんが「後で話を聞かせて」とメッセージをしてきた。で、現在に至るというわけで。


「大野さんは意外に冷たいのね」


「いや、さっき教室に出る際にすれ違った時、『副会長はやっぱり、いい人なんだね』って」


「大野さんがそう言ったのね」


「まあ、うん」


 僕はうなずきつつ、もしかして、大野さんが裏切るとか思っているのかと心配になってくる。とはいえ、大野さんはそれ以上のことはLINEでも個別に伝えてきてはいないので、まだ様子見なのだろう。


「それで、弥市から曽谷先輩に紹介を受けるのは今日ということなのね」


「だね。一応、弥市にも確認したら、『放課後、学食でってことで』とかって言っていたから」


「ということはお昼を兼ねてということね」


 須和田さんの推理は僕としても同じ感想だった。


 今日は土曜日で授業は午前中で終了だ。とはいえ、下校は十二時に近い時間で迎えるので、帰りに寄り道して友達とかとお昼を取る人も多い。加えて、学食はお昼でも空いてるので、一定数の生徒が利用したりする。主に午後、部活動の練習がある人とかだ。


「なら、そこでの戦果を期待してるわね。わたしは当分、ここで時間でも潰していようと思うから」


「えっ? 須和田さん、次の授業、サボる気?」


「ここで二人揃って教室に戻ってきたら、弥市に怪しまれるから」


「ああ、そういうこと」


 僕は納得をしつつ、相づちを打つ。出る時はタイミングをわざわざずらしたからだ。


「じゃあ、話が終わったのなら、教室に戻ろうかと」


「ひとつ聞きたいのだけれど」


「何?」


 僕が顔をやれば、須和田さんはスマホを取り出し、イヤホンを耳につけるところだった。音楽か動画とかで時間を潰す気らしい。


「昨日、別れた後、大野さんと会ったりしてないわよね?」


「それって、どういうこと?」


「大野さん、あの後別れてから、何かを思い出したように、公園の方へ行ったから」


「ああ、そういう」


「だから、宮久保くんも公園の方へ行ったから、もしかして、あの後こっそり会ったんじゃないかって思ったのだけれど」


 イヤホンを両耳につけ終えた須和田さんは訝しげに僕の方を見つめてくる。


 対して僕は、ドキリとしつつも、平静を装いつつ、かぶりを振った。


「いや、大野さんには特に会わなかったけど」


「そう。それならいいのだけれど」


 須和田さんは口にすると、視線を外し、スマホを操り始めた。どうやら、ウソをついてるとは疑われなかったようだ。


 僕は内心安堵をすると、背を向け、階段を降り始める。


 結局、教室に戻り、授業が開始、終了をするまで、須和田さんは現れなかった。

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