最終話変わる私達

 片手にソフトクリームを持って街を歩く。隣には私服姿の辰巳君。

「辰巳君って心広すぎない?テニスコート何個分よ?」

「知らない。てかその手に描かれてるの何?」

「今日の予定」

 ふざけて書いたメモを見て反省した。なぜこういうところでネタに走ってしまうのだろうか。度々我を忘れてしまう。

「………ぐちゃぐちゃでほぼ真っ黒じゃん…」


 ~2日前~


 私の癖を直すには、辰巳君とたくさん話さないといけない。たくさん話す方法……

 デ、デート……とかぁ……?


「辰巳君」

「何?」

「デート…しようよ」

「俺らって付き合って何日目だっけ?」

「3日目」

 早い。どう考えても早すぎる。

 照れ隠しに消しゴムをちぎりまくる。

「まぁ…いいけど……」

「じゃあ明後日駅前で!」

「わかった…」




 私は何度かいつも通りの行動をとった。でも何度も続けず、途中でやめた。段々直せてきている。周りと同じになれる。正直デートよりも癖を直そうと必死だった。

 でも街を歩きながら話したり、買い物をするのはすごく楽しかった。

「いきなり誘ったのにOKしてくれてありがとね?」

「…うん」

 まっすぐ前を見ながら辰巳君は小さく言った。

利恵りえさんでよかったな……」

「え?」

「あっ」

 びっくりした。私でよかった……?

「ごめん。話したいことがあるから俺の家来てほしい」

「はぁ!?」

 急にそんなこと………

「そういうのじゃないから」

「……わかった」

 疑問に思いつつも私は辰巳くんを信じてついて行った。



「お邪魔します…」

 辰巳君の家は小さめのアパート。人通りは少なく、静かな場所にポツンと建っている。

 すごく綺麗な玄関だった。整理整頓されていて、どこも新居のようだった。

「親は?」私が訊くと辰巳くんは「仕事」と静かに返した。

「騒ぎ放題ってことか」

「騒がないでよ」

「冗談冗談」


「で、話したいことって?」

 ソファーに座って辰巳君を見る。辰巳君は深く深呼吸をしていた。

「ありがとう。利恵さん」

「…え」

 辰巳君は優しく笑っていた。でも少し引きつっている。

「辰巳君の笑った顔初めて見たな」

 驚きながら言うと辰巳君は頬を人差指で掻いてこう続けた。

「うん…笑えた。利恵さんのおかげで」

「私のおかげ?」

 訊き返すと辰巳くんは少し震えた声でゆっくりと話し始めた。

「うん。俺…感情を表に出すのが苦手だったんだ。嬉しくてもうまく笑えないし、悲しくても涙は出るけど表情に出せなかった。友達には『不愛想』って言われてさ。そのうち俺から表情は消えていった。でも利恵さんはそんな僕にたくさん話しかけてくれて、俺も努力するようになった。ごめんなさい。中々正直になれなかったんだ。自分を変えるために利恵さんを利用してるような気がして…」


 言葉が出なかった。全く知らなかった。

 自分のためにしていたことが人を変えるきっかけになっていたとは知るよしもなかった。

 そして私は今更自分の行動を恥じた。

「ごめんなさい」

「え?」

 私は辰巳君に頭を下げた。

「私は……自分の癖を直したかった。私は今まで人を笑わせようとしてきた。でも誰も私を笑わなかった。なんでかはわかってる。全部幼稚なんだよ!笑ってくれなかったらしつこく絡み続けること、まったく学習しないこと、人の気持ちを考えれないこと。全部幼稚。わかってても抜け出せなかった。癖を直せなかった。私は…辰巳君といれば癖を直せるとか……最低な理由で…」

 全部打ち明けた。そしたら涙がたくさん溢れてきた。膝の上で握りしめている拳にポタポタと涙が落ちる。


 頑張っても頑張っても中々自分を変えることができなかった。親に相談するのは恥ずかしくて、友達に相談しようとしても既に私の周りからは友達はいなくなってた。辛くて辛くて、やっと正直に打ち明けることができた人が辰巳くんだったんだ。

「利恵さん……本当に利恵さんでよかった。あなたに出逢えてよかった。いいんだよ。俺も利恵さんも変われたんだから」

 辰巳君は私を優しく抱きしめてくれた。その瞬間私は声を出して泣いた。

「私…辰巳君のことが好きだったんだ」

「もしかして初恋なの?奇遇じゃん」

 辰巳君は笑顔だった。今度は引きつってない綺麗な優しい笑顔で。そして透き通った茶色の目からは涙が零れ落ちていた。

 今までの私ならそこで寒い反応をしていただろうが、私は今笑顔で辰巳君を抱きしめている。


 これは私達の癖を直す物語。




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笑って ゆき @yukiyukiay

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