小さな南米国家の異世界転移

エフ太郎

第1話 大統領 ミゲル・フェルナンデス

 クエルノcuerno共和国。

 南米にある小さな半島国家である。つののように突き出たその地形からスペイン語で角を意味するクエルノ《cuerno》と名付けられた。


「閣下、中国へ会談を打診していた件ですが向こうの反応は良好です」


「うむ、結構……」


 部下からそう言われて頷いた男。ミゲル・フェルナンデスはこの国の大統領である。

 彼は数多の権限を独裁的に掌握し、そして徹底的な反米路線を進んできた。


 しかし、経済や福祉の分野で成功を収めた彼は国民から絶大な支持を受け続けた。


 外交と安全保障の面では、やはり反米政策を取り続けながらも、同じく米国と相容れない国と上手くやっていくことで小さな国の小さな軍隊でありながらその立場が揺るぐことは無かった。


 そして彼がこの職についてから早、15年余り。

 西暦2023年。

 地球はさらなる激動の時代を迎えていた。


 ミゲルには大統領府の上階へと続く長い階段がまるで自分に立ちはだかる試練を暗喩しているようにも思えた。

 あるいは、いくらか歳を重ねたことが祟っているのかもしれない。


「ところで、新型レーダーの計画の方はどうなっている? 我が国の空軍力は嘆かわしいほど貧弱だ」


「申し訳ありません! どこの国も機密流出を恐れているようでして、まだ目途は……」


 そこまで秘書官が言い出したところだった。

 突然、空が曇り始める。


 ミゲルはまたスコールかと思った。スコールはこの国では珍しいことではない。

 だがそれにしても、これは空の曇り方が異常だった。


 まるで空のすべてが暗闇に閉ざされているような感覚を覚える。


 その直後、空前絶後の光と爆音が大統領府を襲った。



 クエルノ共和国大統領 ミゲル・フェルナンデスの新たな試練のはじまりであった。

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