Lv.-21 勇者の呪い

 レベル0、今の俺のレベルだ。この世界の人々はレベル0で生まれてくる。つまり、生まれたての赤ん坊と同じレベルだ。


『見事だ勇者よ。褒美にお前を殺してやろう……』

『つまり、勇者は21日後に死ぬ』


 何の抵抗もせず聖剣に貫かれた魔王の言葉が蘇る。


「念のため、この帰還陣の上で正午を迎えましょう」

 安全のため、部屋に入るのはミナとアイギスのみとなった。

 部屋いっぱいに広がる帰還陣には何の反応もない。反応が始まるまで後数日はかかるだろう、もしくは、もう反応しないのかも知れない。


「二人とも離れていたほうが良くないか? 何かあって巻き込んでしまっても困る」

 いつの間にか両腕を固められていた。

「いえ、むしろ何かあったときに離れていては一生後悔しますから」

「巻き込まれて神域へ行けるのであればむしろ本望です」

 二人とも離す気はないようだ。


 無言の時間が過ぎる……


 微かに鐘の音が聞こえた。

 じんわりと体から黒い靄がにじみ出てくる。

 急激に身体の自由が失われ、光の粒子となって消えていくのが分かった。

 「勇者様っ!」

 「待って!」


 驚く二人の顔が見えたのを最後に意識が途切れた……



 ◆ ◇ ◆



「ようこそ、神域へ」

 気がつくと半年前にも見た白い空間に居た。

 いつの間にか椅子に座って女神様と向かい合っている。テーブルの上には紅茶に……所狭しとケーキが並んでいた。


「俺は死んだのですか?」

 女神様は手元の紙をちらっと見て眉をしかめた。


「ステータスを見てみると良いわ……」


名前 :XXX

職業 :勇者

レベル:255


「レベル255?!」

「信じられないレベルよね、この世界のレベル上限は99よ。それ以上は想定されてないわ」

「魔王は100でしたけど?」

「アレはイレギュラーよ。むしろ100になってしまったがために魔王になったの」

 前の勇者の恩恵の効果はレベル吸収。倒したモンスターのレベルの一部を吸収して自分の経験値とする。完全にチートである。

「邪竜の棲み家まで辿り着いたころ、彼女は既にレベル90を超えていたわ」

 ちなみに邪竜もレベル90を超えており、その戦闘は三日三晩は続いたという。

「レベル99になると経験値が入らなくなるようになっていたの。まさか、一気にレベルが上がってそのチェックをすり抜けるなんて思わないじゃない!?」

 女神様が興奮して立ち上がった拍子に紅茶が少し溢れる。

「おかげで神域に呼べず帰還させることもできなくなるし、瘴気はあふれるようになるしでほんとに困ってたのよ」


 レベル99を超えてしまったことで女神様からの干渉どころか世界からの干渉も受けなくなっていたらしい。

「その後は急激なレベルアップでも99は超えないように調整して、イレギュラー発生時は神域に隔離可能に調整して……って修正にかなりかかったわ」

 女神様が死んだ目をして何かを思い出している。

「でも、俺、レベル255になってるんですけど?」

「レベル99を超えないチェックを、それはもう入念に入れたのよ。0から下がってレベル255になるなんて思わないじゃない!」

 叫んだ女神様はテーブルに突っ伏した。


「レトロゲーかよ……」


 一口サイズのシュークリームを頬張る。うん、美味い。


「とにかく、これで勇者としての契約達成ね」

 女神様は心底ホッとしたような顔をした。

「それでは帰還させるわね、後の事は任せて頂戴、悪いようにはしないわ……」


 そんな声を聞きながら意識がだんだん遠くなる……



 ◆ ◇ ◆



―― プァーッ、プァップァッーッ!

 クラクションを鳴らして眼の前をトラックがすり抜けていった。


「帰ってきた……のか?」

 ポケットからスマホを取り出して日付を確認した。

「うん、召喚された時間に戻ってる。しかし、そうなると異世界救済RTAの記録としては0秒になるのか?」

 くだらない事をつぶやきつつ、遅刻しそうな時間だったことを思い出した。

 慌てて学校へ向けて駆け出し……

「……おおっと!」


 あっという間に道路を渡りきり、そのまま塀に突っ込みそうになる。

「これは、ステータスそのままか?」


名前 :XXX

職業 :元勇者

レベル:255


 つぶやきに反応して視界に半透明のステータスが浮かぶ。


 レベル255。そっとステータスを閉じると力をセーブしながら遅刻回避のため駆け出した……


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21日後に死ぬ勇者 水城みつは @mituha

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