エピローグ

 体育館の四方に吊り下げられた紅白の幕がふわり、と春風に舞っている。パイプ椅子に座っているたくさんの生徒、父母の間の道を一歩一歩踏みしめるように歩いていく。たくさんの人の拍手を背中に受けながら。背丈が伸びていくらか短くなった、スカートのプリーツが膝下で跳ねる。足を止めて角を曲がると、いよいよ来賓席だ。ここで一礼した後、壇上に上がって証書を受け取ることになっている。差し当たり体育館の上の方にある校章をじっと見つめて歩いているが――目は嘘をつかない、とよく言われるのは私も例外でなく、周辺視野でずっと大村先生を追っていた。腕を伸ばせば届く距離に、ずっと求め続けた大村先生がいる。

 はやる気持ちを抑えつつ、後ろ脚をさっと引き、回れ右をする。会いたくないのも、会えないのも全部嘘だった。この瞬間をずっと待ちわびていた。今、大村先生と目が合う。髪の毛が癖もなく流れているのは変わらないのに、スーツ姿なのがあまりにも馴染まなくて、可笑しい。眺めているうちに、自然に口角が上がる。深く、深くお辞儀をする。

――伝わったかな、伝わってるよね

 顔を上げて再び胸を張ると、大村先生の目は三日月型に細まっていた。私は大村先生に背を向けて、壇上へ一歩踏み出す。本音を言ってしまえば、立ち止まっていたかった。時間よ止まれ、と切に思った。

 けれども、時間は平等に流れて、止まることを知らない。立ち止まっても、振り返ってもいけない今を生きている。だからこそ私たちは一瞬一瞬を大切にする。その先に、たくさんの実りある出会いを求めている。

 出会いの果てに、自分を見出すために。誰かにとってかけがえのない存在になるために。

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道の歩み方 潮珱夕凪 @Yu_na__Saltpearl

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