第38話 ハルト・オーエンの誕生

「そう言うことでハルト君、君はアルマのところでお世話になりなさい。それにこれは君にとっても、アルマにとってもいいことだから」


「あ、はい……」


 ひとまずは……生活の当てができたとみていいのかな?


 そんな考えを募らせながら俺は反射的に返事をした。

 すると王妃様は少し困ったようにしながら


「不満とかはないの? 全部私が決めてしまってハルト君の意見は聞いてなのだけども?」


「俺としてもその提案は嬉しいです」


 そう答えると王妃様は微笑み、アルマさんは苦い顔をした。


「ほら、ハルト君もあなたのところがいいって」


「いや、そういうことでは……」


「はあ〜とりあえずはいいですよ。でも私のところに来るってことは私の好きにしていいってことですよね?」


「いいけど、手加減はしてあげてね」


 アルマさんは王妃様との会話が終わると椅子から立ち上がり俺の所まで来た。


「話は聞いたよな? 本当はめんどくさくて嫌だがこれもいい機会と考えるようにした。私はお前の保護者になる。そしてお前は私が考える理想の魔法使いになってもらう」


「望むところです」


「じゃあ行くぞ」


 そう言ってアルマさんは俺の襟を掴み無理やり引きずり出す。


「え、ちょ、ちょ! 自分で歩けますよ〜」







「しっかり洗えよ〜」


 俺はアルマさんにせかされてスポンジに込める力を強めた。


「はぁ〜、何で風呂掃除してんだが」


 アルマさんに王城から引っ張り出され、俺は王都にあるアルマさんの家に来ていた。年上の女性とは言え、初めて異性の家に入ることに思春期の俺は少し恥ずかしさを感じた。

 しかし、玄関を開けるとそこにはゴミ……屋敷とまでは言わないがそこらじゅうに紙や瓶やら散らかっていた。匂いとか、虫が湧いて、汚いというか散らかっていると感じる家だった。


 そして俺が居候する条件に俺はアルマさんからほぼ全ての家事を押し付けられた。俺としても居候するにあたって、家事などのアルマさんの手伝いは積極的にしようと思っていた。

 

 だとしても、この家の状況は酷いと思う。俺も家で積極的に家事を手伝ってはいなかったが、それでも俺の部屋は綺麗にしていた。


「ん、はぁ〜」


 俺は風呂掃除を終わりある程度アルマさんの家を綺麗にしたのでリビングにいるアルマさんに掃除が終わったことを伝えに行く。


「アルマさん、終わりました」


 そう言うと、


 ソファに寝転んでいたアルマさんは起き上がり、


「ご苦労さん、そこに座っていいぞ」


「では失礼して」


「しっかし、お前。男の割には掃除が上手いな。これで料理も上手かったら将来の結婚相手は苦労しないな」


 そう言ってアルマさんは笑った。


「それは嬉しいですけど、これからどうするんですか? 決まってすぐに王城を飛び出してきましたけど」


「あ〜、とりあえずお前はハルト・オーエンそう名乗れ」


「ハルト・オーエン……ですか」


「そうだ、それで身分は私の息子……いや弟の方がいいか……」


「え? アルマさんの苗字もオーエンなんですか?」


「そうだ、この世界でお前みたいな身元不明者の身元を急に作るとなったら、養子が一番手っ取り早い。でも、私も私の代で苗字をもらったからどうなるかは王妃様次第だな」


「そ、そうですか」


「あまり、畏れるな。これから形式としては家族となるんだ。少しは砕けていこう」


 そう言ってアルマさんは両膝を叩き、立ち上がった。


「さて、ハルト・オーエンの誕生を祝って飯としようか。ほら外に食いに行くぞ。私の行きつけに連れてってやる」


 その言葉どうり俺はアルマさんとご飯を食べ、『ハルト・オーエン』に生まれ変わった。










 ハルトがアルマさんに連れ去られた後、僕は気になったこともあり、母上に話しかけた。


「母上、ハルトたちは上手く行くでしょうか?」


「エリック、あなたがそれを言うの?」


「いや、僕が言いたいのはアルマさんとの生活がうまく行くかのことです。そもそも、僕はアルマさんのことを知らないですし……それに僕の能力にも少し引っ掛かりがあると言うか……」


 そう言うと、母上は少し笑い嬉しそうにした。


「何かおかしかったですか?」


「いいえ、あなたが自分の能力と上手く付き合っているようで、嬉しく思っただけですよ。つまり息子の成長を喜んでいるのですよ」


「そ、そうですか」


 母上にそう言われ僕は頬が赤くなるのを感じたが気にしてないふりして話を続けた。


「それでアルマさんになんで僕の能力に引っ掛かるのか知ってるんですか?」


「『知ってますか?』でしょ? 言葉には気を遣いなさい。それにいちいち、僕の能力って面倒ね。何か名前でも付ければ? トールみたいにね」


「わかりました」


 何度も母上が何度もはぐらかせるので、僕は諦めて席を経とうとするが、


「さっきから、女性のことを詳しく知ろうとするのは下品ですよ。それにアルマのことは話す気はありません。王妃としても一人の女性としてもね」


「わかりました」


 僕は少し不貞腐れたようにして返事をした。




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