第37話 ラーセル③

「そんなものがあるのか!?」


「本当に? アルマより早いなんて、ありえないよ!」


 謁見が終わり、俺は王様に俺自身の事、ここに来た過程、さらに地球でのことを話した。今話しているのは自動車のことだ。

 そしてアルマと言うのは、黒髪高身長の美女のことだ。

 自動車が馬車より早いって言ったらアルマさんがその速さを再現するよに王様に言われてシャトルランのように動き始めた。


 俺は再現なんかできないって最初は思っていたけど、アルマさんは見事に再現していた。それこそ時速40〜50は出てると思うぐらい。でも、アルマさんの限界はそこで終わりではなく、俺が地球での早い乗り物、レースカー、飛行機、ジェット機、戦闘機、ロケットとか喋るたびにアルマさんはそれを再現しようとする。


 流石に飛行機の速さなんか分からないのと、屋内でレースカー以上のスピードを出すのは危ないとのことで、地球とローリデのスピード勝負は終わった。


 そこからは口頭で説明することになったので、なるべく分かりやすく喋った。そして単位なども地球と同じであることが功を奏して、結構分かってくれた。


「1秒で8キロメートルって、すごいな〜。ここからカラリヤまで800キロメートルぐらいだから、100秒……1分40秒で着く訳か……ヤバいな」


「でもそれほどの速度なら、相当な空気からの力が加わると思うが……どうなってるんだろう?」


 王様とエリックは思い思いに言っているが、俺としてはアルマさんの方が気になった。


 だって話を聞くとアルマさんは新幹線並みに動けるらしい……その事実に俺は驚いていた。


 だから今この場で話す側、話した側、どちらも驚いてアワアワしている奇妙な空間になっていた。


 そんな空間を壊したのは、エリックの話を聞いてからずっと考え込んでいた王妃様だった。


「エリック、あなたの話を聞いて私も考えました。確かに、私の考え、陛下の考えをうまく纏めれたと思います。そして考えた結果、それで私もそれでいいと思います。しかし、私はそれでもこの国を守るためにも彼、いえハルトを疑い続けます。そして、信じるのはあなた達に任せます」


 そう言って王妃様は席を立ち上がり、俺の近くまできた。


「ハルト、いつかあなたを信じられる日が来るのを楽しみにしています」


 そう言って、初めて王妃様は俺に笑顔を見せた。だけどすぐに、真顔になり言葉を続けた。


「私もあなたのことを知りたいわ。お茶……いや少し早めのお昼としましょう」







「さて、腹ごしらえも済んだようだしこれからの事を決めましょう」


「……」


「聞いてますか?」


「……ふぁ、ふぁい」


 俺はお昼ご飯に夢中になっていて王妃様への返答に少し遅れてしまった。


 まだ昼っていうのに、コース料理みたいに前菜やらメインやらとかで、えらく上品な食事、お食事って感じだった。初めは、作法とかちんぷんかんぷんだったので王様やエリックとかが食べてから食べるようにしたが、あまりの美味しさで後半の方は誰よりも食べ終わるのが早かった。


 その美味しさを説明するならば、料理が口に自動的に入ってくる……いやもう俺の口が料理の方に引き寄せられるぐらい美味しかった。


 特に、肉料理が絶品! おかわりもしたぐらいだ!


 宿で食べたオークも美味しかったが、その美味しさを塗りつぶすぐらい美味しかった。そしてソースも美味しくて、甘味、塩味、少し酸味があるソースで、このソースはよだれを促進させる薬なんじゃないかと思うぐらい、食べるのを辞められないソースだった。


 そう! だからこそ俺は王妃様にすぐに反応できなかったのだ! だから睨むのやめて下さい。

       お願いします…………怖いです……


 俺が口に食べ物を入れながら返事をしたのが気に入らなかったのか目つきが悪なり見るからに機嫌が悪くなった。しかしその矛先は俺に向けられることもなく何故かエリックの方へ向いた。


「エリック、あなたちゃんとハルト君に魔力回復させたの? 明らかに魔力が足りてないように見えるんですが」


「母上……それについては僕も驚いていますよ。だって昨日オークのステーキを5枚も食べていたんですよ! 数字で言うと600グラムぐらいでしょうか」


「そ、そうなの? ……ハ、ハルト君、今どれぐらいお腹がいっぱいになった?」


 俺はちょうど肉料理を食べ終わったところで、王妃様が少し焦ったように俺の方に話が回って来た。


「そうですね、これからあるデザートを食べれるぐらいは食べれますかね」


 そう答えたのだが王妃様はそれを聞くとすぐに一緒に食事をしていたアルマさんに質問をしていた。


「ねえ、アルマ。これってどう言うことなの?」


 そう聞かれたアルマさんは冷静な口調で答えた。


「そうですね。もしかしたら私と同じ体質なのかも知れません」


 俺は何気に初めてアルマさんの声を聞いたが見た目と違って声は女性にしては低めの声だった。


「そしてもう一つはあのガ……彼と言うより彼のいる世界は皆このような体というものです」


「そう、それならあなたハルトの親になってくれないかしら?」


「「え?」」


 王妃様はアルマさんの話を聞いて少し落ち着いたかな……そう思った瞬間にこのような発言をした。


「ちょちょちょっと! いくらファーラさんの頼みでも嫌ですよ! こんなクソガキ預かるなんて! それに私んところにつき惑われている娘がいて、迷惑だってこの前話しましたよね?」


 おっと〜? 今完全にガキって言いましたね〜? それに丁寧にもつけてきて。


「でも結局は、その子の面倒を見ることになったんでしょ? それにハルト君の事情を知ってる人はなるべく少なくしたいの、あなたも分かるでしょ?」


「ぐ……ぐぐぐ、ファ、ファーラさんそこを何とか! あの娘はうまい具合に話をつけられたけど、今回は難しいでしょ!」


「確かにそうね」


「な! そうでしょ! だからさ、その……頼みますよ〜」


 アルマさんは先ほどの態度とは打って変わって、まるで王妃様と姉妹(?)のように話し始めた。


「いえ、これは王妃としてあなたに頼みます」


「そ、それってほぼ命令?」


「そうですけど?」


「う、うわぁぁぁぁ〜〜〜!」


 王妃様は惚けるように答えていつの間にか俺たちの前に置かれた紅茶を啜りながら答えた。そしてアルマさんは頭を抱えながら椅子と一緒に後ろに倒れて呻き声を上げた。

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