第36話 ラーセル②
王様との謁見の日になった。
俺は朝早くに宿を出て、王様との謁見のために王城に来ていた。流石に早すぎたのか、俺は別室で2時間近く待つことになっていた。
この謁見は俺にとって運命となる……とまでは言わないが相当大事になるだろう。もし、この謁見の結果次第では俺は路頭に迷うぐらいならいいが、監禁生活、拷問、死刑とか考えれるだけでも最悪な結果が頭によぎる。
「緊張してる? 王様、王妃様って言っても普通の中年って考えていいと思うよ」
そう言ってきたのはエリックだった。
「緊張するなって言っても無理だろ。そもそもローリデでの普通って何だよ? それこそこの世界の常識を俺に求められてもな」
「緊張する時は最高の結果、最悪の結果を想像するといいらしいよ。そうすれば、大体はその間の結果になりやすいらしいよ」
「最悪は想像できるが、最高は想像しづらい。どうすれば?」
「ほら、毎日王城で好きなことできるとかね。その時は王城から出れないけどね」
「それって監禁生活じゃん? 俺は自由を愛している人間だが?」
「見方が変わればね」
コンコン
扉からノックが聞こえた。それに応じてエリックが返答すると扉が開かれた。入って来たのは身なりのいい人だった。
「謁見の準備が整いました」
「じゃあ、行こうか」
エリックがそう言って立ち上がったので俺もそれに合わせて立ち上がった。
俺とエリックが連れてかれたのは謁見の間。
大層、豪華だと思っていたけどそこまで派手なものではなく、シンプルで落ち着いたデザインで何とも品のある感じだった。
「面を上げよ」
そう言われるが、俺は頭を上げない。
何故ならそれが作法だから。
俺もこの事を知ったのはついさっきのことで、しかも謁見の間に移動する時にだ。
もっと早く教えてくれとエリックに文句を言ったが、俺自身緊張しすぎて作法のことなんて忘れていた。
「面を上げよ」
もう一度そう言われたので俺は頭を上げた。
頭を上げるとそこには王冠を被った赤髪の少しふくよかなおじさんと金髪で少し痩せすぎな金髪の女の人が座っていた。この二人が王様と王妃様なんだろう。
そして、その二人の前に身長が180センチぐらいある黒髪の美女が佇んでいた。その美女はずっと俺の方を見ていて少し照れるが、にやけるのを我慢して王様の方へ視線を固定させた。
「……」
誰も喋らない……ただただ、謁見の間に静寂が包み込む。そんな静寂に俺は押しつぶされそうになるがその静寂を打ち破ったのは王様だった。
「エリック……その、なんか言ってくれ。こういう雰囲気壊すの得意だろ?」
何とも王様らしくない言葉だが、今の俺には祝詞のようにも思えた。王様はエリックに話題を振ったが答えたのは王妃様だった。
「あなた……言いかたってのがあるでしょう? それだと威厳が保てませんよ?」
「いや〜ちょっと面倒くさいな〜ってね。君もそう思うよね?」
そう言って王様は笑って俺に聞いて来たが、またもや王妃様が口を開いた。
「面倒くさいではありません! 少なくても今回の案件はこの国だけではなく、帝国にも、いや世界全体としても重要なのですよ!」
そう言って王妃様は顔を赤くして怒っているが、王様は王妃様の手を握り宥めるように言葉を発した。
「重要って、エリックが連れて来た彼が危険ってことか? それならここまで大人しく来たのが証明にならないか?」
「そういう風に装っている可能性もあります」
「エリックには嘘を見抜く才能がある!」
「確かにそうですが、エリックの能力はまだ発展途中です!」
「トールも大丈夫だと言っていたではないか?」
「危険であるという可能性は少ないですが、ゲートから出てきたっていう事実は変わりません! 今、世界はゲートから出てくる魔物の群れ、いえ魔物の軍隊、それと戦っているのです。そして、世界にはそんな魔物たちに殺された人達が数多くいます! そんな彼らがゲートから出てきた彼を許せるでしょうか?」
王妃様は話しながら興奮して、いつの間にか立ち上がった。
「彼は魔物ではない」
「今までの行動から見ればそうです! でも、世界はゲートを憎んでいます。そしてそんな彼を庇えば、この国は滅びます。それほどゲートというのは憎まれています。これは彼自身が危険って訳ではなく、彼が生み出す影響が危険と私は言っているのです! 陛下、どうか賢明な決断を」
王妃様は満足したのか、そう言って椅子に座り直した。
王様はそんな王妃様の熱烈な説得を聞いて、黙り込んでしまった。
王妃様の話は何となくわかるような気がする。要は俺を保護、もしくはホンラード王国の民として迎える。そうすれば、人々のゲートへの怨みがホンラードに向かう可能性がある。それを王妃様が恐れているって訳だ。
「お前の意見は分かった」
そう王様が答えた。
ちょっと!
分かってくれないでいてよ!
それだと俺は死んじゃうじゃないか?
「だが、彼を殺す。もしくは監禁などは反対だ」
「陛下!」
「お前がホンラードの未来を考えてくれてるのは分かる。でもそれは人類の未来を考えられてないと思う」
「……」
「今、世界はゲートに対して有効な手段がない。それに年々魔物たちが多くなっている。それこそ魔神とか言う化け物までも出て来ている。それに元々この世界にいる魔物の生態系も破壊され始めている。そして、ついさっき来た情報ではこの世界の知性ある魔物の一部が人間との共闘を願っている。
そう言う情報も来てるほどこの世界はゲートに侵食され始めている。
そんな中、ゲートから……言い方悪いが普通の人間が出てきた。彼は私たちの世界とは違う世界からやってきたとなった。これは賭けるしかないだろう。この選択が私たちの世界を救う選択となると私は思う」
そんな王様の言葉にエリックが付け加えるように言葉を発した。
「僕もそう思うから、ここまで連れてきたんです! それに考えがあるんですよ」
「そうなのか? 聞こうか?」
「はい、僕の考えとしては概ね父上に似ていますが少し違います。彼、ハルトには普通に生活してもらってもいいと思います。それこそ学院でも入ってもらってもいいですし」
「私もそう考える。普通にとはいかないがそれなりに自由な生活をしてもいいと思う。だが、世界の反応に対して変わってくるが」
「そこで、ハルトがゲートから出て来たという事実を秘密にすればいいじゃないですか?」
「それは……」
王妃様が反論しようとするが、口を詰むんでしまった。
「私も賛成したいが、お前やトールそんな能力を持つものがいて、バレたらどうするんだ?」
「それについては大丈夫だと思います。そもそも、ゲートから人が出て来たと言う事実はまだ公になってもないですし、僕みたいな能力を持っているのはもう有名になっています。大人でも子供でも、だからこそ彼をラーセル王立学院に入学すれば結構な機密保持はできると思います。また、そこで名を挙げる、ゲートの魔物と戦うなどある程度の功績を上げれば、彼は人類の敵ではないと世界にアピール出来る……」
「よし、それで行こう! 今日の謁見終わり!」
エリックが話している途中で王様がいきなりこの場を終えてしまった。
俺はそんな王様の行動に王妃様が怒るんじゃないか、恐る恐る王妃様の方を見るが、顎に手を当てて考え込んでいた。
そんな状況に困惑していると王様がこんな事を言った。
「さて、ハルトって言ったかな? 謁見では君のこれからの事を話していたが、君自身のことはまだ知れてない。だから今からはその話をしよう!」
そう言って、笑う顔は先ほどとは変わっていてクシャとしていた。
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