第35話 ラーセル①

 俺が海鮮料理を楽しみつつ不思議な疑問(?)を唱えた次の日、俺は馬車に乗っていた。


 もちろん行き先は王都ラーセルである。俺が王都に行くと決まったのは昨日なのに、もう出発している。多分だが、元々の用事のついでで俺を運ぶことになったと考えていいだろう。じゃなければ、早すぎな気がする。


 この世界の魔法を除いた技術は、未だに馬車や蝋燭などを使ってるのを見れば、産業革命つまり蒸気機関などの手動から自動と言ったようにまだそこまで発展はしてないようだ。


 しかしそれはあくまで魔法を除いた話であって、便利さ、豊かさで劣っているわけではない。それに今乗っている馬車を引いている馬は自動車と変わらないぐらいのスピードを出している。


 出発前に何か馬に着けていたことから魔道具の一種と思われる。また俺たちの馬車を囲むようにフルプレートを着た騎士達を乗せた馬も馬車と一緒に並走している。


 馬車の窓から見た速さの感覚は変わらないが、見ている風景が違うので俺は少し困惑とちょっとした好奇心があった。


 でも一つ言いたいのは、道がろくに整備されてないせいで、馬車内の揺れは凄まじく、ちょっとしたジェットコースターみたいで疲れた。そしてけつが痛い。それだけが不満だ。







 けつの痛さに慣れ始め、窓の外を眺めている時に一頭の馬が近づいてきた。


「よう! 馬車には慣れたか?」


「おかげさまで」


 そう答えた相手はホンラード近衛騎士団団長のトールさんだ。


 もともとトールさんもゲートを調べるためにカラリヤに来ただけで、本当は近衛騎士らしく普段は王様を守っているだそうだ。


 ただ、今回はゲート案件という事で王国随一の実力を持つトールさんが自己判断で半ば飛び出す形でカラリヤまで来てしまったらしい。


 その結果、今の状況に至るわけだからトールさんにしては骨折り損になってしまったわけだ。


「お前が何者であるかは、これからの行動にかかっている。肝に銘じろ」


 トールさんは突然そう言って、前方のエリックが乗っている馬車の方に馬を走らせた。


 出会った当初から思っていた事だが、トールさんの話は唐突すぎる! 


 その事をエリックにも言ったが、それがトールさんの平常運転らしく誰もが最初に困惑し、そしてみんな、気にしなくなるそうだ。(ちゃんと意思疎通はできる)


 まあ、言ってることは悪くない。


 そして、俺もみんなと同じくいつかは気にしなくなっていくのだろう。








 朝からずっと王都に向けて、休憩を挟みながらも馬を走らせ続けたおかげか、すんなりと王都に着いた。


 道中でエリックから聞いた魔物とか出ないか、期待したが何故か出なかった。普段なら一、二回は出るそうだが運悪く(?)俺がいる時に限って出ない……ほんっと何で?って感じだった。


 王都に着いたのは良いのだが実は王都はかなり広く、今俺がいるのは王都の端っこでここから王様達のいる王宮は馬車でも2時間ほどかかる。


 また夜に王様に訪れるのはあまりよろしくないらしく、明日の朝に行くことになった。


 ……とエリックが言っていたのだが、これは怪しい……。


 俺が知るエリックの性格からして、おそらくは宿に興味を持って無理やり王様との謁見を伸ばしているように見えた。

 ただ、俺がそう思ってもこの集団の中で一番の権力者であるエリックには皆逆らえず、各々が宿を取って休むことにした。


 そして俺はエリックと同じ宿に泊まることになり、その宿での夕食をとることにした。


「お待たせしました。こちらは人参、ジャガイモ、キャベツなどが入った野菜スープで、メインはオークのステーキです!」


 宿の看板娘らしき子が俺とエリックが座っている席に料理を持ってきてくれた。やっと食べれる……しかし、ここで初めて俺が食ったことない……いや、確実にそう思えるものが出てきた。


 ……オークって、あの? 

    豚の頭を持ったモンスター的な……

 

 そう考えて俺は出された料理に手をつけれず、ずっとステーキを見つめてしまった。


 実際、かなり美味しそうなのだが俺が知ってるあのオークをイメージしてしまい、あまり手につけれない……いやはっきり言って食べる気が失せてしまった。


 それで俺が困っていると、やはり彼が動いてくれた! 


 そんな彼ことエリックが、俺の様子に気づいき、何故か憐れむような顔をして俺の肩に手を置いてきた。


「エリック……」


「言わなくてもいい。もう分かったから」


 嘘がわかるエリック。


 彼だからこそ、俺の心情にいち早く気づいたのだろう。


 俺がこのオークが苦手(食べたことはないけど……)って事を。

 これを地球で考えるとすると、日本人には馴染みのないエスカルゴを食べる時みたいだ(食べた事ない)。


 そんな俺の期待を100パーセント、いや120パー……


「ステーキ追加! 3枚、3枚持ってきてくれ!」


 エリックは宿の調理場の方に駆け込みながらそう叫んだ。


「エリック……」


 そう呟きながら俺は自然とステーキを口に運んでいた。







 上手かった。


 あのオークの見た目からは想像できなかった。


 でも、想像する俺が悪いと食べ終わってから気づいた。


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