第34話 王子の提案⑤

 トールさんの一人語りが止まりそうにないのでチャーデオさんが無視して俺に話しかけて来た。


「こいつの話の続きなんだが、お前には王都ラーセルにこいつと共に行って、王様に謁見してもらう。理由は……まあ、言わなくても分かるだろう?」


「エリックからは聞いています」


 確証はないがおそらくはエリックの言っていた計画のことだろうと判断した。


「じゃあ話は以上だ。あと……そろそろ飯の時間だ」


 そう言ってチャーデオさんは立ち上がり俺についてくるように言った。


「あの…トールさんは?」


「ああ、腹減ったら来るさ。あいつのエリックへの育成は半端ないからな」


 今までもこんな事があったようで、トールさんの扱いに慣れていた。


 そうして俺はトールさんのエリック育成計画を聞き流しながら部屋を後にした。







 トールさんとの初対面を終えて、俺はチャーデオさんに連れられてダイニングルームに来た。そこにはすでにエリックが座っており、何か本を読んでいた。その様子は試験の間の昼飯で勉強する学生のようだった。


「エリック、俺はマナーにうるさい方ではないが食事中に本を読むつもりか? もしそうならやめてくれ、気が散る」


 チャーデオさんにやめるように促されたが、エリックはそんな様子を見せずに本に視線を落としながら喋った。


「チャーデオ、俺は食事中にも本を読むと言う方法で俺は時間の無駄を省いてるんだよ! これはあの有名なもやってるらしい!」


 そう言い張るエリックに少し困惑するチャーデオさんだったが、特に何も言わなかった。


 トールさんを除く、俺、エリック、チャーデオさんが揃ったので夕飯を食べることになった。


 形式としては、バイキングみたいで大皿料理を自分の皿に分けて食べる感じだった。料理は海鮮系が多く、魚や貝類などあり、一番目に惹かれのは1メートルくらいあるロブスターだった。


 元いた地球でも食べたことのない豪華な海鮮料理に俺はマナーとか考えずに無我夢中で食べてしまった。


 そんな俺を見てチャーデオさんは驚きながらも嬉しそうにしていた。


「どうだ。うまいか?」


「はい! めちゃくちゃ美味しいです! 俺がいた世界でもこんな美味しい海鮮料理食べた事なかったです!」


「そうか〜それは嬉しいわ。何だって俺んところは海鮮料理と海が自慢だからな!」


 チャーデオさんはワインらしきものをグイッと飲んで、サーモンを食べていた。


 そうして食べ進めていくうちに俺はふと、あることに気づいた。


 あれ? この魚なんだろう?


 そう思った瞬間少し俺はある疑問が浮かんだ。それを確かめるために俺はエリックに話しかけた。


「なあ、エリック。少しいいか?」


「いいよ〜」


 エリックはもう本を読み終えたのか、サーモンのカルパッチョを口に運んでいた。


「お前が今食べてる魚ってサーモン? もしくは鮭?」


 エリックにそう聞いたが、答えたのはチャーデオさんだった。

 その答えに納得しつつも俺は次々と料理に指を差しながら質問していった。


「ああ、そうだ。それが何か?」


「じゃ、じゃあこれは?」


「牡蠣だ」


「この赤いのは?」


「マグロだ」


「じゃあこの野菜は?」


「レタスだ」


 そんな問答を何回もやっては周りの人はウンザリしそうだが、エリックは何か思いついたように頷きながら見ていた。


「で、どうしたんだ? 何か食べられないものでもあったか?」


 俺の行動が理解できていないチャーデオさんは困ったようにワインを一杯煽った。


「チャーデオさん、今飲んでるのってワインですか?」


 俺は最後確認でそう質問した。


「そうだが、どうした? なんかお前変だぞ?」


 チャーデオさんは俺が思った通りに答えてくれた。


「で、ハルトは何に気づいたの?」


 そうエリックが話を促してくれた。そしてチャーデオさんとエリックの視線を浴びながら俺の思った事を口に出した。


「さっきチャーデオさんが答えてくれた魚や貝、ロブスターとか全て俺の世界にもあるんだ」


「それで?」


 エリックがいい具合に合いの手を入れてくれる。


「それで、全ての名前が俺のいた世界と同じなんだ」


 少しの沈黙があったがエリックがまた聞き返してくれた。


「え〜っと、それで?」


 いまいち、二人には分からなかったようで俺も上手く説明しようと頭をフル回転させた。


「その〜、あ! 俺がこの世界が俺とは違う世界って気づいた時に思ったのは衣食住のことだ!」


「あ〜はいはい。衣服、食事、住居のことね。それで? 今の話にどう繋がると?」


「俺はこの世界で来て覚えなければいけないと思ったことの一つで、食べれるものと食べられない物だ。その…………俺が住む世界の食べ物とこっちの世界、ローリデの食べ物は見た目とか名前とか違うって考えていたし、それこそ全く知らない食べ物があるって思っていた」


 俺の説明が下手なこともあって、エリックはまだ俺が言いたい事が分かってなかった。チャーデオさんも分かっていないのか静かにワインを飲んでいた。


「それで……その俺が言いたいことは……その……た、端的に言えば、俺とローリデの人達の認識の違いがないってこと!」


「認識の違い? どういうこと?」


 俺はすごく簡潔に言えたつもりだが、上手く伝えられたわけではないらしい。何とか俺も頭を振り絞りながらも俺の考えを言葉にしていく。


「例えばだけどさ。エリックが緑に見えるものを他の人が青に見えるとかそんなことない?」


 そう聞くがエリックにはそんな感覚がないらしく頭を傾げていた。


 でも、それに覚えのあるチャーデオさんが反応してくれた。


「あ〜〜お前が言ってるのは、血の色が赤く見えたり、黒く見えたりすることか?」


 おそらくだが、チャーデオさんが言ってるのは動脈血と静脈血のことだろう。俺もそこまで詳しくはないが、病院で採血してもらった時に血が黒かったので、慌てたのを採血してくれた看護師さんがその時教えてくれたのだ。

 今となっては、その知識がなければ上手く説明できないので感謝しかない。


「そう、そうです!」


 俺が激しく同意したのでチャーデオさんは酔っ払っているか頬を赤くして喜んでいた。


「で! 俺が言いたいのは全く違う文明や進化をしているのに名前が一緒っておかしいってことです! また、赤とか青とか色の仕分けも一緒っておかしくない? ってことです!」


 決まった……


 そう俺は思った。


 これで少しはエリックもチャーデオさんも分かるだろう……


「うん、言いたいことは分かったけど……。それは不思議だね〜って思うだけで別にいいんじゃない? それどころか、ハルトにとってはいいことじゃない? 訳の分からない食材食べるよりは?」


 エリックにそう言われて、俺は少し悟った。


 確かに、そうだけど…………そうだな……。


 俺自身、否定をしようと思ったが、疑問の説明が目的で疑問を解決する事が目的じゃなかったと今になって思い始めた。その疑問が浮かんだが今すぐに解決すべき事じゃないし、それに知ってもあまり意味がないように思える。


 別に良いか……。 それが今の俺の考えだった。


 そして俺が一人で盛り上がっては盛り上がり、やっとの思いで説明できたが、オチとしてはとてもあっけないものになってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る