第33話 王子の提案④

 俺の事を知っている人は少ない方がいい。しかし少なすぎても、俺が異世界人である時の融通が効かない場合がある。そんな事を考えていた俺だが、今のところ、それを見定める事はエリックにしか頼めなかった。


「僕が計画しているのは、父上と母上そして近衛騎士団団長、ミルコ州、オクラ州、メルマ州の3人の領主……あたりかな〜 あ、あと兄さんたちにもかな?」


 思ったより少なく感じたのはやはり、あまり目立たせないんだろうか?目立つなら大層に目立たせるのも手だと思うけど、俺自身としては遠慮しておきたいものだ。


「その、ミルコ、オクラ、メルマってのは?」


「ああ、それはホンラードは大部分でその三つの州と王都で分けて統治してるんだ」


「つまり、分散して収めているわけね。領主と町長的な感じで」


「うん、そのような理解でいいよ。で、理由はホンラード王国内ではこの三つの州の領主、王様がいれば何とかなるからかな?」


 何となく話を聞いていると、三権分立みたいに権力が一カ所に集中しているわけでは無さそうだ。これがいいことなのかは、つい最近まで小学生だった俺には知識不足だ。


「後の人は、この国の重鎮とかかな? 計画といっても全てが他人頼りだから、提案になるのかな?」


「そこら辺は、俺には分かんないから、エリックに任せるよ」


 エリックの話を聞いて特に否定することはなかったので、俺はまたゆっくりとお湯に浸かることにした。


「そんな簡単に決めちゃっていいの? しかも他人に?」


「俺は他人を怖がる事をやめたんだ。お前みたいに」


 そう言って俺は、顔クシャっとしてエリックに向けて親指を立てた。


「な、なんか腹立つな〜」


「さっき驚かされたお返しだ」


 そうして俺たちは風呂を堪能した。







 とてもいい匂いがして来て俺は目が覚めた。俺はいつの間にか寝てしまっていたらしい。お風呂に上がってから、メイドさんにとても美味しいりんごジュース的なものいただき、それを飲んでから俺に当て振られた部屋まで言ったところまでは覚えている。昨日もぐっすり寝たつもりだったが思ったより、体は疲れていたらしい。


 外を見るとすっかり空はオレンジ色になっており、これから夜になるところだった。そして、起きたのはいいが何をしようか、何をしていいのか分からず、とりあえず俺は昼間エリックとチャーデオさんと話し合った客室に向かうことにした。







 俺が客室のそばまで行くと何やらチャーデオさんが誰かと喋っていた。俺は邪魔になると思い元いた部屋に戻ろうとしたのだが……


「そこの少年、少し待とうか?」


 急に聞きなれない声がして俺は振り向くがそこには誰もいなかった。客室の中から聞こえたから部屋の中にいる子だと思う。そう結論づけて俺は歩き出し始めたが、客室のドアが勢いよく開き、再び俺は振り向いた。


「君だよ、君。君のことを呼んだんだよ」


 そう言って声の主は、俺に近づいてきて肩を組んで無理やり客室に入らされた。その人は30歳ぐらいに見え、茶髪に普通の顔をした人で、格好もラフな感じでなぜ領主の屋敷にいるのか分からなかった。

 でもそれが逆に凄みを感じた。


「ささ、座って。座って。汚いところだけど」


 そう促されて俺はチャーデオさんの斜め向かいに座った。


「その言葉は屋敷の主人である俺が言うもん、お前が言うことじゃないだろ!」


 チャーデオさんは少し怒った様子で、俺の横に座った茶髪の人に言った。


「まずは自己紹介からな。俺はトール。平民だ。でもこの国の近衛騎士団団長を務めている! よろしくな」


 そう言ってトールさんは俺に握手を求めてきたが、俺は色んな意味で驚いてしまって椅子からバランスを崩して落ちてしまった。


「す、すみません。驚いてしまって」


「そうか。そうか。やっぱり俺はすごいからな」


 そう言って自己完結してくれたのが俺にとっては幸いだった。でも小声で(もともと声がでかいから小声になってない)チャーデオさんが“違うだろ”って言っていた。


「そんなすごい俺だが、お前のことはチャーデオから聞いている。お前、ゲートからきた魔人なんだろ?」


 いや、またか!

 俺も最初はエリックにそう聞かれたが違うと、ちゃんと説明したはずなのにまた魔人に間違われてるし!

 そもそも魔人ってちょくちょく出て来てるけど、全然知らないんだが? 何となくはイメージは出来るけどそう何度も言われたらこっちも分かんなくなるわ!


「さっき話しただろ! ゲートから来ただけで、まだ分かってないんだ。そもそもゲート自体が詳しく分からないんだ」


 チャーデオさんはこのことを何度も話しているのか、うんざりそうに頭を抱えながら説明した。


「だからこそ、余計な危険な芽を潰した方が良い……と思っていたが、大丈夫そうだな」


「エリックもそう言っていただろう……」


「いや、あいつの能力はまだまだだ! 今はあれだが、いずれは最高な能力になるだろう! 元々の能力が使いやすい上に魔法、剣、体術、全てにおいて平均以上ある。でも今の状態がずっと続くとは限らないんだ! だからこそエリックには俺などの各分野のエキスパートに……」


 俺はこの部屋に入って来たのはいいが、いまいち俺が会話に入れてない気が……って入れてない。俺に関係する話なのに俺が会話に入れないと言う謎の空気に俺は戸惑っていた。

 何だかこの世界に来てから戸惑うことが多い気がする…仕方がないことなのだが。


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