第8話 国宝と子宝


 嬉しくて気を失いそうよ。そうやって前世も私を抱いてくれたのね。嬉しい。私ならこのまま逝ってもよろしいのですわよ。


 あら、杖が光っている。みすぼらしい古びた杖が、光沢のある真っ白い杖に変わりましたわ。と思いましたら、杖の頭から一筋、光をお放ちになった。


 光が差した先は空の向こう。あれはイーグル? あらまぁ、なんて大きなわしだこと。


 こっちに飛んで来ましたわ。そして、王都を旋回するセリアさんを襲いましたの。


 二体は空でもみ合って、私たちの前に落ちて来られましたわ。イーグルさんがセリアさんのお首を大きなおみ足で地面に押さえつけていらっしゃる。


 ああ、そういうことですね。セリアさんのお首を私に斬れってイーグルさんはおっしゃりたいのですね。


 分かりました。ちょっとお待ちになって。封印の剣をお持ちしましょう。あら、でも、セリアさん。よっぽどお首を斬られたくないようですね。私に例のツバキを吐きかけて来ましたわ。


 ああ、愛しきラファエル。私を助けて下さるのね。間一髪のところで私を押し退けて下さいました。そして、私が落としてしまった封印の剣をお拾いになり、セリアさんのお首をおねになられましたわ。


 セリアさんは悲鳴を上げました。もう復活は致しません。燃えた灰が崩れるようにセリアさんは消えて行きましたの。





 あれからもう五年。王都は今のところ何事もなく平和ですわ。平民はいつもの通り、日々の糧を得るために右往左往していらっしゃる。そういうところですよ。だからちょっと施しを受けると騙されるのです。


 私は平民どものために学校を造りましたわ。もう少し頭を使ってくださいとね。あ、そうそう。ガーフィールド卿には感謝しておりますわ。功労者ですもの。伯爵の地位をご用意させて頂きましたの。領地もございますのよ。王都の東の森。誰ももうガーフィールド卿の許し無くして木の枝一本たりとも切ることはかないませんの。


 愛しきラファエルは今や国王陛下でございますのよ。偵察隊の結成をお命じになり、西方の彼方にあるリディアというところに人を送られましたわ。どうやら魔物の勢いが増しているようですね。必ずや彼らはここにやって来るでしょう。


 剣と杖は大丈夫です。国宝として城の奥深く、近衛兵団の精鋭に守らせているわ。もちろん、私は愛しきラファエルと結ばれましたわ。もうまぼろしは見なくていいのですよ。頭の中でなく、実際に毎日そうやっておりますもの。


 二人の子宝にも恵まれましたのよ。そうそう。この前、上の子のジョルジュサンクさんが私におっしゃったの。


「古き友よ。ありがとう。杖と剣を守ってくれて」


 ですって。


 お待ち申しておりましたのよ。でも、まさか私たちの子供に転生なさるなんて流石白の賢者ヒューゴさん、ベストチョイスじゃぁございませんこと。






               《 了 》

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破滅フラグからの結婚破棄。でも、ご心配には及びませんわ。我が名はアンジェラ・ビュシュルベルジェール。公爵令嬢ですわよ。 悟房 勢 @so6itscd

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