第7話 キュートで笑顔の素敵なセリアさん


 結婚式は青空の下で行われます。国王の庭園を改装したと監視人さんはおっしゃっていました。貴族平民関係なく、多くの国民に祝ってもらえるようにとの王太子殿下のご配慮だそうです。


 貴族平民が見守る中、愛しきラファエル様は長い長いバージンロードを歩くの。私も人を押し退けて進みますわ。もう、まさに大司教の前です。愛しきラファエル様がセリアさんのベールをお上げになって誓いのキスをなさろうとしています。私はバージンロードに飛び出しました。


「この結婚、許しません!」


 あら、愛しきラファエル様の驚きよう。ベールから手を離し、私を指さすの。


「その女を捕らえよ!」


 え? なんで?


 まぁ、嫌だわ。近衛兵が私に群がって来ました。汚らわしい。私の体にベタベタ触るの。


 離しなさい。そうきつく命じますが誰も聞く耳もってくれません。レディーに対して失礼ではございませんこと。


 あら、空に一羽のたか。やけに低い所を飛んでらっしゃる。あらまぁ、それが舞い降りてぇ、まぁっ! 


 セリアさんを襲いましたわ。セリアさんの顔に爪を立て、ベールを持ち去って行かれました。


 セリアさんは痛がっています。どうやらベールと一緒に、目玉一つも持っていかれたようですわ。


 セリアさんは悲鳴をお上げになられました。と、いいますか、怒ってらっしゃるようですね。大きな口を開け叫んでいます。あら、嫌だ。尖った歯がいっぱい。舌が長く伸び、その先は二つに分かれています。


 驚きましたわ。私だけでなく、見物していた多くの貴族たち平民どもが硬直しています。


 ところがセリアさん。何事も無かったように愛しきラファエル様の方にお向きになられました。もう目は治ってらっしゃる。キュートで笑顔の素敵なセリアさんが誓いのキスの続きをと、愛しきラファエル様にせがまれていらっしゃる。


 だめ! 愛しきラファエル様は嫌がっています。お助けせねば。ちょうど私にベタベタ触っていた近衛兵もいなくなったことですし。


 あら、まぁ。愛しきラファエル様とセリアさんの間に入るお方がいらっしゃる。蜘蛛の子を散らすように皆さん逃げ惑っていらっしゃるというのに、なんて勇敢なお方。


 あの方は確か、ドラゴン騎士と異名を持つお方。名前は何とおっしゃったか。平民出の何とかってお方ですね。


 ドラゴン騎士さんは剣をお振り上げになると踏み込まれました。縦に一閃。あら、素晴らしい剣技だこと。セリアさんが真っ二つ。


 でも、くっつくのね。


 セリアさんは頭から股にかけて斬られたというのにミミズのような触手が左右どちらからも伸びて絡み合って引き合うの。はい、元通り。元のキュートで笑顔の素敵なセリアさんですわ。


 ドラゴンのなんとかさんはお可哀そう。お顔をお掴まれになって、お首をへし折られてしまいましたわ。


 愛しきラファエル様は動けませんの。またセリアさん、誓いのキスをせがまれている。あら、今度はカラス。なんとまぁ、にぎやか。大勢で来られましたこと。セリアさんにお群がりになり、もうセリアさんの姿は見えません。チョコレートでコーティングされたようですわ。


 セリアさんとカラスがおたわむれになられている間に、愛しきラファエル様を安全な所にお連れしないと。でも、カラスさん、セリアさんの叫びと共に散り散りになってどこかに行かれましたわ。姿を現したセリアさん。あらまぁ、真っ黒いヘビか、トカゲになってらっしゃる。


 翼もお持ちなのね。コウモリみたい。手を大きく広げると飛び立って行かれましたわ。


 でも、お帰りにはならないのね。王都の上空を旋回し、何やら吐いています。タンでしょうか。ツバキでしょうか。さすが平民出ですわ。無教養で下品極まりない。


 街中でタンを吐くのは百歩譲ったとして、人に迷惑をかけるのはいかがなものかしら。タンに触れたところ全てが溶けていきます。逃げ惑う人はもちろん、建物まで。


 酸か王水みたいなものなのでしょうか。王都はもうぐちゃぐちゃです。


 あちらこちらで凄い音ですの。それに汚らしい砂塵。肌と髪が台無しですわ。


 あららぁ、石壁が溶けてしまってあの贖罪しょくざいの塔までも倒れていきましたわ。見晴らしが良かったのにもったいない。


 え? 愛しきラファエル様。どうしたことでしょう。大丈夫かとおっしゃって私を今、抱いてくれていらっしゃるの。私を守りに来て下さったのですね。そして、謝っていらっしゃる。


 ああ、なんて気分がいいこと。夢心地………。


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